歩くと気づく「田園調布」に空き家が増える事情 渋沢栄一の街づくりに欠けていた視点とは

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1つ、具体的な例を示そう。田園調布に自宅を所有しているリタイアした親は不動産という資産を持っている。家計簿的な感覚で収入と支出だけで見ると相続税は払えない計算になるが、資産に目を向けると大きなアドバンテージがあることがわかる。

さて、親はすでにリタイアしており、借金をするための信用、時間、場合によっては現金を持っていない。だが、現役で働いている子どもがそれらを持っているとしたら、それぞれの資産を持ち寄って「連結」すれば借金ができる。親の土地を担保にすれば借り入れが起こせるのである。それを利用して田園調布以外の土地で不動産経営を始めたらどうだろう。相続税支払いに必要なキャッシュを得ることができるようになるのではなかろうか。「日本の個人資産のうちの6割は不動産。それを活用すれば道は開けます」と菅井氏は言う。

コロナ禍の今なら貸し出すという手も

コロナ禍で広い家、自然豊かな住環境を求める人が増えた今なら、親の住宅を手放すのではなく、手を入れて賃貸に出すというやり方もありうる。

コロナ以前から都心部では4LDKなどファミリー向けの高額賃貸が不足しており、新築が出ると広い部屋から埋まるという状態が続いている。これまでは六本木や赤坂など超都心のタワーマンションなどが選ばれてきたが、テレワークが行えるようになった今ならそれよりは多少郊外でも広い庭があるなど住環境に優れ、車での利用も便利な田園調布をよしと思う人はいる。通販やデリバリーが一般化した今なら、駅周辺にしか商業施設がない点も不便とはされないだろう。

駅前には駅から放射状に3本の銀杏並木が並んでいるのが田園調布の特徴だ(筆者撮影)

相続した家を貸した家賃と本業で貯蓄、それを原資にしてさらに不動産を運用するという手を使えば、いずれ貸した家に戻ってこられることもありうる。時間はかかるし、よいビジネスパートナーを見つける必要もあるが、それができれば親の資産を手放さなくて済むだけでなく、新たな資産を加えることもできるのだ。

これからの相続であるなら早いうちに対策を立てればいいが、すでに空き家、空き地になってしまったものはどうか。

内海氏(写真:筆者撮影)

内海氏は地区計画区域外で欧米に多い連棟式、地下に駐車場を作った建物を計画。共用部を広く取って田園調布の緑豊かな環境を守りつつ、一戸建てを買うよりは多少なりとも安価な価格で提供することで若い居住者層を呼び込むことを考えている。

「空き家ももちろん問題ですが、敷地に対してゆったりと庭を取って建てられていたかつての田園調布からすると今は外に対して窓のない威圧的な壁の家を作ったり、植栽ではなく塀を立てた、街の趣旨とは違う建物も横行するようになっています。最低面積は守っていても緑、余裕のない住宅が並ぶようになったら田園調布のよさは失われます」

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