政治家の不誠実が社会の分断に拍車をかけた訳 経済優先派と人命優先派の溝を深めてしまった

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ウイルス側の視点から言い換えれば、宿主であるヒトが一枚岩にならずそれぞれの自己の立場を正当化して、社会的な合意が困難な分裂状態に陥っているほうが生存には有利といえる。まさにこのヒトの心理を見透かした“戦略的なデザイン”は功を奏したのである。

コロナ否認もコロナフォビアも、コロナという多面性があるキマイラ的な存在(キマイラとは頭はライオン、胴はヤギ、尾はヘビという姿をした架空の怪物)の一面にだけ着目し、リスクの高低を解釈しているにすぎない。双方を正当化するエビデンスも事欠かないからである。

しかも、事態をさらに厄介なものにしているのは、コロナの初期対応に失敗した後も軌道修正されることなく、そのツケの連鎖が現在の悪夢を招来していることだ。国家が正常に機能していないという過酷な条件下において、コロナ否認とコロナフォビアの不毛な対立を半ば喜劇のように演じるしかなく、果ては経済優先派と人命優先派の埋まらない溝を作り出してもいるのである。

日本はコロナ禍からも何も学べないのか

哲学者のスラヴォイ・ジジェクは、パンデミックの初期の段階で「この感染拡大の最もありうる結果は、新しい野蛮な資本主義の蔓延である。体の弱った高齢者が、多数犠牲になって亡くなる。

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労働者は、生活水準の大幅な低下に甘んじるしかなくなる。生活に対するデジタル管理は、永続的なものになる。階級格差は、生か死かの問題に直結するようになる」(『パンデミック 世界をゆるがした新型コロナウイルス』中林敦子訳、Pヴァイン)と述べたが、欧米諸国はもちろんのこと日本もおおむねこのシナリオに沿った悲劇の真っただ中を突き進んでいる。

恐らく日本は、東日本大震災時と同様、コロナ禍からも何かを学ぶことはなく、次なるパンデミック(それは、若年者が重症化するといわれている強毒型の鳥インフルエンザかもしれない)でも、気候危機においてもまったく同じ轍を踏みかねない。

わたしたちは悪い冗談のような地獄と付き合わなければならない運命なのかもしれない。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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