コロナで激変、「60歳退職」目指す人の落とし穴 年金と退職金を早めにもらっても後は続く?

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また、Aさんは「どうせ働いても、年金がもらえなくなるだけだから損だ」と先輩から聞いたそうです。これは在職老齢年金により60歳以降も会社員として働くと、給与の額によっては老齢厚生年金が受け取れなくなってしまうためです。

例えば、月の老齢厚生年金(厚生年金加入にひもづく制度なので、国民年金から支給される老齢基礎年金は影響されません)が10万円だとしましょう。すると年金カットの基準が28万円なので、18万円以上の給与があると年金が一部ないし全部受け取れなくなります。給与が20万円だと年金との合計は30万円となり、28万円を2万円オーバーします。

すると本来受け取れるはずの10万円から2万円の半分、1万円がカットされて9万円の年金受給となります。給与が30万円だとどうでしょうか。年金との合計額は基準を12万円オーバーしますので、その半分6万円がカットされて年金受給額は4万円です。給与が40万円なら、オーバーする金額は22万円ですから受給できる年金はゼロです。このカットされた年金は、後から受け取れるのかとよく聞かれますが、単純な消滅です。

しかし、65歳未満の在職老齢年金は2022年から変更され、年金カットの基準が65歳以上と同じく47万円になります。予測されるAさんの給与額は47万円をオーバーすることがなさそうですから、この点は心配無用ということになります。

60歳で退職金もiDeCoも受け取ると所得控除が減る

AさんはiDeCo(個人型確定拠出年金)を転職前の企業型確定拠出年金時代と合わせて15年ほど継続しています。iDeCoは一括受け取りのほうが税金が得だと聞いたので、60歳になったらすぐにお金を引き出すつもりです。

税金計算の際には、同じ年に退職金と、退職金扱いができるiDeCoなどを複数受け取る場合は金額を合算します。さらに重複している期間の退職所得控除は計算に含みません。少し複雑なので今回はAさんのケースのみでご説明します。

実は、Aさんは50歳で今の会社に転職していますから、会社から受け取る退職金については勤続年数10年分、退職所得控除400万円が使えます。一方iDeCoは、前の会社での企業型確定拠出年金の加入期間も通算されますから60歳まで加入すると17年となり、使える退職所得控除は680万円です。

仮に60歳で退職金とiDeCoを同時に受け取ると、50歳からの10年間は重複期間となりますから、使える退職所得控除はiDeCoの17年分のみとなります。

Aさんの算段では、会社の退職金は600万円、60歳時点でのiDeCoは500万円とのことです。もし60歳時点で全額を受け取ると退職所得控除680万円ですから、420万円は課税対象となります。実際はここから2分の1になり、分離課税ですから所得税は11万2500円、住民税が21万円、合計32万2500円の負担になります(説明をわかりやすくするため簡略化しています)。

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