中東諸国が中国の「一帯一路」を利用する理由 オイルマネー以外の収入を求め中国に接近

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シンジャールはもともと、キリスト教徒やヤジド教徒、クルド人、トルクメン人、アラブ人など異なる民族や宗派が混在している地域だった。イスラム国掃討作戦が終わっても、ヤジド教徒をはじめ誰も故郷のシンジャールに戻れないでいるのが現状だ。

しかもシンジャールは、イランからの南緯からトルコへと向かう陸路の要衝でもある。シリアに向かうにも、イスタンブールに向かうにもここを通らないといけない。シンジャールはかなりの高地となり、周囲を見渡すことができる。そのため、ここを制した者が陸路を制することになる。だからこそ、各勢力が一歩も譲らず、武器を持って戦っているのだ。

一方で、紅海からスエズ運河経由で地中海に進む海路が遮られることになると、南緯の重要度がさらに上がってくる。イランがイエメンにまで勢力を伸ばしたのは、バブ・エル・マンデブ海峡という要衝を押さえるためだ。イエメンにはホーシー派というシーア派武装勢力がいる。

イランのパイプラインが一帯一路につながれば

イランと同じシーア派だが、イランは12代イマーム派で、イエメンのホーシーはザイド派だ。宗派が異なるが、同じシーア派というくくりでイランはホーシー派を支援している。実は、ホーシー派はイラン革命防衛隊傘下のイラン系ミリシアの一つなのだ。

イランはさらなる大きな野望を持つ。一帯一路のルートをペルシャ湾に向かわせ、ペルシャ湾の最も奥に位置するイラクのファオの港から延びる陸路がイランから来る南緯につながれば、イランにとって夢のようなことが起きる。さらにイラク、イラン南部と地中海とがパイプラインでつながればイランの思惑は完璧となる。

というのも、スエズ運河の通行料は高い。1隻1回5000万円はかかる。しかも運河の通行路の深さが最大20メートルしかなく、それ以上のスーパータンカーが通れない。スーパータンカーの積荷にはスエズマックスと呼ばれるより小さなタンカーに移し替えるか、喜望峰を通過してアフリカ大陸をぐるりと迂回しなければならない。ゆえに、物流におけるコスト高の原因となっている。

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