ESG投資がなぜ騒がれているか知っていますか 脱炭素の流れが大規模な資本の再配分を起こす

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(出所)『週刊東洋経済』2月1日発売号「脱炭素サバイバル」

取締役選任への反対投票や株主提案を増やすなど、大手機関投資家は、今や「環境アクティビスト(物言う株主)」へ変容しつつあるといっても過言ではない。そうした流れに便乗するヘッジファンドなどの新興投資家や環境団体も増え、企業への圧力は増すばかりだ。

アメリカでは世界最大の石油・ガス開発会社のエクソン・モービルに対し、気候変動リスクへの対応の遅れで10兆円以上の株主価値が失われたとしてヘッジファンドが改革を要求している。エクソンに対しては、ブラックロックなども2020年の株主総会で会社側の取締役選任議案に反対票を投じた。

日本国内では昨年、環境NPOの気候ネットワークがみずほフィナンシャルグループに対し、脱炭素の行動計画を年次報告書で開示するよう定款変更を求める株主提案を行った。6月の株主総会で否決されたものの、海外の大手議決権行使助言会社が賛成を推奨し、野村アセットや農林中央金庫系運用会社を含む国内外株主の34.5%の支持を得た。

気候ネットワークの平田仁子理事はこう語る。「巨額の投融資を行う金融機関が資金の振り向け先をどうするかは決定的に重要だ。みずほの件で株主提案にはものすごい波及効果があるとわかった。今後も脱炭素に向けた金融の“うねり”の中で何ができるか考えたい」。ほかの環境団体と連携し、石炭火力発電を続ける企業の主要株主にダイベストメント(投資撤退)を求める要請書も送付している。

今後はEU(欧州連合)が導入を予定する「EUタクソノミー」の影響も注目される。何がグリーンな経済活動かを分類する基準となるもので、EUに拠点を置く機関投資家はその基準に従って運用状況を開示するよう求められる。彼らの投資先の日本企業や、彼らの資金を預かる国内運用会社への影響は避けられず、投資家による企業選別が加速する可能性は高い。

日本企業の対応は待ったなし

日本企業の対応は待ったなしだ。大和総研でESG投資動向を分析する田中大介研究員は、「グリーン投資の拡大に伴い、環境対策や情報開示が従来と同じままでは企業の資金調達は難しくなる」と語る。そのうえで、化石燃料関連など脱炭素が短期的に難しい企業に対して資金を誘導する「トランジション(移行)ファイナンスの重要性も高まる」と指摘する。そうした企業の改善がない限り、社会全体の脱炭素達成は不可能だからだ。

政府がグリーン成長戦略の旗を明確に振り、企業が能動的に変革を進め、投資家が企業の成長への確信を強めてマネーを投じれば、脱炭素へ向けた歯車の回転は加速する。日本でその流れが本格化していくか。官民の本気度が問われることになる。

『週刊東洋経済』2月6日号(2月1日発売)の特集は「脱炭素サバイバル 水素、EVめぐり大乱戦」です。
中村 稔 東洋経済 編集委員
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