「聞く耳を持たない人」を納得させて動かすコツ 自分以外の価値観を意外と認められていない

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自分の言いたいことをただ伝えるのではなく、どう言えば気持ちよく行動してくれるか、相手に“伝わる”コミュニケーションを意識するようにしてみてください。

クレームを一蹴してしまうもったいなさ

毎年、ある企業の若手社員を対象としたクレーム対応研修に登壇しているのですが、この企業の社員の方々と話していると「うちの会社のルール、クソなんですよ」「職場の雰囲気がクソみたいで……」と、いつも「クソ」という表現を多用します。

これは、SNS社会の弊害だと感じています。今の世の中には、自分の好きなことや、興味があることだけを追いかけ、同じ趣味や自分と同じ考えの人とコミュニティーをつくる風潮があります。そのため、自分の価値観とは違う会社で決められたルールや自分とは考えが違う人とのコミュニケーションを苦痛に感じ、すべてが自分にとって意味がないことのように思い込んで「クソ」という言葉で片づけてしまう人も少なくないのです。

「職場の雰囲気のどこがクソなの?」と彼らに聞いてみると、どこがダメなのか、嫌なのかをきちんと答えられません。自分の価値観以外を受け入れられない考え方が、癖として身に付いてしまっています。

この企業では、クレーム対応研修後に、フォロー研修として実際にクレーム対応を行ってみてどうだったのか、感想を共有する時間が設けられたのですが、やっぱりクレームを言ってきたお客様のことを“クソ呼ばわり”するのです。

「クソみたいなことで怒るんですよ」「ふつう、これくらいでクレームを言わないですよ。クソですね」と、「お客が言うことは、すべて間違っている」とほぼ全員のメンバーが口をそろえて言います。

私もお客様相談室で働いていた時代に、“このお客さんが言っていることは間違っている”と考えて、不満タラタラで対応して、クレームをしてきたお客様をさらに怒らせてしまった経験があります。でも途中で、自分が感情的になってしまう理由に気づきました。それは、“相手が間違っている”=“自分が正しい”と思い込んでいるからです。なぜ、自分が正しいと考えるかと言えば、自分の価値観や物差しだけで物事を捉えているからです。

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ここで必要なことは、“相手が間違っている”と考えるのではなく、“自分とは違う考え方がある”と捉え、他人の考えを受け止めるようになることです。仕事上で相手に対してイライラしたり、“嫌なヤツばかりでクソだな”と言ってしまったりする人は、相手の価値観や考えを受け入れる度量がないのです。

周囲の人と良好な人間関係を築くには、自分とは違う考え方や価値観に触れて、自分の考え方がすべてではないことを認識すること。そう考えると、うまくいかないことや不満な毎日が少しずつ変わっていくかもしれません。

谷 厚志 怒りを笑いに変えるクレーム・コンサルタント、一般社団法人日本クレーム対応協会の代表理事、クレーム評論家

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たに あつし / Atsushi Tani

1969年、京都府生まれ。近畿大学卒業後、広告会社の営業マンを経て、旅行会社のコールセンター、お客様相談室で責任者として2000件以上のクレーム対応に従事。一時はクレームによるストレスで出社拒否状態になりながらも「クレーム客をファンに変える対話術」を確立。現在は独立し、クレームで困っている企業などのために全国でコンサルティング活動を展開。著書に『どんな相手でもストレスゼロ! 超一流のクレーム対応』(日本実業出版社)など。

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