東レ、帝人「航空機大不況」でも暗くない理由 コロナ直撃が大きな痛手、他用途に活路見出す

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帝人の医療向け炭素繊維は、コロナ影響で逆に拡大している。軽くて丈夫でX線透過性などの特性を持つことからレントゲン機器や人工呼吸器に利用されているが、ヨーロッパで特に需要が高まっているという。帝人は2020年6月にドイツ子会社の生産力を40%強化するなどして、一層の取り込みを図る。

市場拡大が見込まれる「空飛ぶクルマ」

先を見据えた種まきも進む。注目度が高いのが、人や荷物を載せて、ドローンのように空中を移動する「空飛ぶクルマ」向けだ。世界中で開発競争が過熱しているが、軽量化などの必要性から炭素繊維複合材の引き合いは強い。

東レは2020年7月、「空飛ぶクルマ」を開発するドイツのリリウム社に炭素繊維複合材料を供給する契約を締結。胴体や主翼などに利用される。同社は2025年の商業運航を目指している。

空飛ぶ車は実証実験を経て各国の航空規制等をクリアする必要があるため、市場が本格的に拡大するまでには少し時間がかかりそうだ。ただ、アメリカのモルガンスタンレーが空飛ぶ車を軸としたUAM(都市航空交通システム)の2040年の市場規模を1兆4620億ドル(約150兆円)と推定しており、魅力は大きい。帝人も商機をうかがっている。

その他、日本や欧米、中国政府の自動車の電動化政策も受け、まだボリュームの小さい電気自動車や燃料電池車向けの今後の拡大にも大きな期待がかかる。

他用途向けの拡大は事業の裾野を広げるだけでなく、ほかにも意味を持つ。

航空機向けはもともと、景気影響を特に受けやすい分野だ。例えばリーマン・ショックで航空業界が打撃を受けた後の2010年3月期、東レの炭素繊維複合材の「航空・宇宙」向けの売上高は前年同期比29%減の224億円に落ち込んだ。また、世界的なパンデミックが起きた場合の甚大な影響は、今回のコロナが示しているとおりだ。

コロナの影響が大きい間に他用途向けを拡大し航空機向けの依存率を引き下げられれば、事業の安定性を高めることにもつながる。当面の苦境は、コロナを奇貨として、どのようにピンチをプラスに変えられるかが問われる大事な時間にもなる。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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