欧州は主要国の政権が弱体化、政策停滞の懸念 ポスト・メルケルは弱く、マクロンも支持率低下

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CDUの党首には選ばれたが、今ひとつ人気のないラシェット氏( 写真:Odd Andersen/Pool via REUTERS)

だが、目に見える事象ばかりがリスクイベントではない。筆者が考える今年の欧州が直面する最大の問題は、重要な政治日程を控える主要各国で政治が内向き志向を強め、必要な構造改革や政策議論が停滞するとみられることだ。変異種の感染拡大とワクチン接種の遅れでコロナ危機の克服が遅れる場合、こうした傾向が一段と強まることが予想される。

ドイツでは昨年12月に商店や学校を閉鎖するなど行動制限を強化したが、19日には変異種の感染抑制に向けて少なくとも2月中旬まで都市封鎖を続ける方針を明らかにしている。EUは夏までに成人の7割のワクチン接種を目指すが、一部の国では接種の遅れが伝えられる。以下、欧州の主要国を取り巻く政治環境を確認する。

ポスト・メルケルの迷走はまだ続く

ドイツでは9月の連邦議会選挙をにらみ、ポスト・メルケルの動きがいよいよ本格化する。保守系与党キリスト教民主同盟(CDU)は16日の党大会で、メルケル路線の踏襲者とみられる中道穏健派でノルトライン=ヴェストファーレン州首相のラシェット氏を新たな党首に選出した。

当初、メルケル首相の後継者と目されたクランプ=カレンバウアー国防相が、2018年末の党首就任後に失策を重ねて首相候補から脱落。コロナ禍で二度にわたって党大会が延期されたこともあり、後継党首の選出が選挙イヤーにずれ込んだ。CDU内にはメルケル時代に中道化した党を保守に回帰させたいと訴える層も厚い。中道維持と保守回帰で揺れる党内をどうまとめるのか、ラシェット新党首の手腕が問われる。

最大与党の党首となるラシェット氏が秋の連邦議会選挙での首相候補となるのが自然な流れだが、今回はやや事情が複雑だ。ラシェット氏の人気は低迷し、各種の世論調査で首相候補の本命と目されているのが、バイエルン州首相で姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーダー党首だ。CDU・CSUは春に党首間で協議し、統一候補を選定するとしている。今後の党運営や前哨戦となる3月の州議会選挙の結果が、ラシェット氏が後継首相候補としての立場を固められるかどうかの試金石となろう。

誰が後継首相の座を引き継いだとしても、抜群の安定感と現実感覚で16年にわたってドイツと欧州政界を引っ張ってきたメルケル首相のような立ち回りは期待できない。ドイツの親EU路線や財政緊縮路線に変化が現れるわけではないが、当面は内政問題や政権基盤固めに比重が置かれることになりそうだ。

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