バイデン就任演説から見えた5大注目ポイント 結束を訴え、実行することが何より求められる

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④ ビジョン

トランプ大統領就任演説で掲げられたのは、明快な「アメリカ・ファースト」というビジョンです。トランプ政権下では、このビジョンにそってアメリカの国益が最優先される政策が展開されました。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」や環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したこともこのビジョンに沿ったものでした。

それに対して、筆者は、バイデン新大統領就任演説では、やはり国際協調や統合、「分断から団結へ」が政権運営におけるビジョンとして打ち出されると予測しました。そして実際にも、これまで述べてきたように「全国民を一致団結させる」というビジョンを示したことに加え、アメリカ外に対して、国際協調してさまざまな課題に対処していくことを示したのです。

必ずできるという可能性のある世界

⑤世界観

トランプ前大統領は、就任演説で「母親と子どもたちは貧困にあえぎ、国中に、さびついた工場が墓石のように散らばっている。教育は金がかかり、若く輝かしい生徒たちは知識を得られていない。そして犯罪やギャング、薬物があまりに多くの命を奪い、可能性を奪っている。このアメリカの殺戮は、今、ここで、終わります」と述べました。「アメリカの殺戮」という過激な表現を使い、超絶暗い過去から明るい未来へという世界観を提示したわけです。

一方で、バイデン新大統領就任演説で示されると筆者が予測した世界観は、必ずできるという可能性のある世界です。バイデン次期大統領は、大統領選挙勝利演説で「私は、アメリカは一語で定義することができる、と常に信じている。それは“可能性”である。アメリカでは、誰もが、自分の夢と神から与えられた能力がある限り、行き着けるところまで行く機会が与えられなければならない」と述べています。

そして、実際の就任演説でも、全国民の一致団結という大きな目標に対して、「必ずできるという可能性ある世界観」を提示するのに相当の時間を投資しました。「状況が変わる」「状況は変えられる」ということを示していくのに、キング牧師が夢を語ったのと同じ場所に女性初の副大統領となったカマラ・ハリス氏が立っていることをその成功例として紹介したのです。

⑥価値観

多様性が重視されるアメリカでは、これまで同国がどのような価値観を大切にしてきたのか、これから新政権はどのような価値観を大切にしていくのかといったことを国内外に示すことが非常に重要です。

トランプ大統領就任演説では、本音、正直、変化という価値観が提示されました。それに対して、筆者は、バイデン新大統領就任演説では、正義、礼節、公平という価値観が打ち出されると予測しました。これらは明らかにトランプ大統領が欠いていたものです。実際の就任演説においても、これらの価値観に加えて、歴史、信仰、理性が同時に提示されるとともに、寛容さ、謙虚さ、愛などが強調されたことが、新たな政権誕生を大きく印象付けたと思います。

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