43歳で警察官から格闘家になった"怪物"の現在 自他ともに認める「天職」から次なる道へ

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すっかりプロレスラーの風格だ(写真:関根さん提供)

悩んだ関根さんは、警察官を辞めることを決断した。もう数カ月在籍すれば、年金が満額もらえるタイミングだったが、自分の年齢や残りの選手生命を考えると、その時間すら惜しいと思ったからだ。当然、上司や同僚からは引きとめられ、妻にも驚かれたが、気持ちは変わらなかった。決断に踏み切れたのは、ブラジル人の生き方や、前出の先輩の死が大きかったという。

「ブラジル人には、『やりたいことをやらない人生なんて意味がない』ってマインドがあるんです。その生き方に背中を押されましたね。あと、僕が格闘家デビューしたイベントを主催していた先輩が、白血病で急死したこともきっかけです。人はいつ死ぬかわからない、であれば我慢せずにやりたいことをやろう、と決めたんです」

鍛え上げられた関根さんの背中(写真:関根さん提供)

何より大きな後押しは、警察官として接してきた若者たちの存在だ。パトロールをしながら、生きづらさを抱えて非行に走る少年・少女たちに、関根さんは「学校や勉強が嫌いでも、やりたいことがあれば一生懸命やりなさい。諦めたり恥ずかしがったりせず挑戦しなさい」とよく伝えていた。

それなのに、自分自身が公務員の安定性にしがみつき、格闘家への夢を諦めてしまうようでは格好悪い。生きざまを通じて、若者たちに挑戦する姿を見せたかったのだ。

そしてタイトルマッチの大舞台へ。対戦相手は、世界最高峰の格闘技団体UFCにも出場している強豪。結果はKO負けだったが、関根さんは晴れやかで前向きだ。

今度は生き様を通じて人を笑顔にしたい

「このままでは終われないですね。またリングに上がって、結果を残していきたいです。でもそれより、負けても諦めずに立ち上がり、ズルをせず正しく生きて、挑戦していく姿をみんなに見せたい。警察官は、国民の笑顔を守るのが仕事ですが、今度は生き様を通じてみんなを笑顔にしていきたいです」

現在は格闘家だけでなく、プロレスラーとしても活躍する関根さん。一歩踏み出したことで、昔からの夢を手に入れたのだ。昨年はコロナウイルスの影響で、試合が軒並み中止になったが、「これも人生のイベント。体を休められたしちょうどいい」と笑い飛ばす。2月21日には久々の試合も予定している。

逆境などもろともせず、関根さんは人生を楽しみ、これからも挑戦し続けていく。その物語は、本家『シュレック』のように、人々に笑顔や勇気を届けていくのだろう。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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