死にまで至る「身体拘束」に頼る精神病院の現実 日本の身体拘束率は国際的に見ても異常に高い

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高裁判決後に記者会見に臨む、故・大畠一也さんの両親と弟。遺影は一也さん(記者撮影)

「一也に一目でも会いたいと思って、病院には7~8回通いましたが、一度も会わせてもらえず身体拘束されていることも知りませんでした。怖かっただろうし、息子が最期、どういう思いで亡くなったのかと考えるといたたまれないです」(澄子さん)

「身体拘束なんてされるなら、無理矢理にでも病院から連れて帰ればよかった。痛かっただろうし、つらかっただろうし、後悔ばかりが先に立ちます」(正晴さん)

病院側は最高裁に上告受理を申し立てた。取材に対し「代理人弁護士と相談して理由書を作成しているため、コメントは差し控える」という。

行動の自由を完全に奪う、最も強度な制約

精神科病院における身体拘束は、精神保健福祉法で①自殺や自傷の危機が切迫、②多動や不穏が顕著、③患者の生命に危険があるなどのときに、ほかに方法がないと精神保健指定医(経験年数やレポート提出など要件を満たした精神科医)が認めれば行うことができるとされている。

患者の体や手足を専用のベルトなどを使ってベッドに固定する身体拘束は、患者の行動の自由を完全に奪う、最も強度の身体の自由に対する制約だ(写真参照)。しかもエコノミークラス症候群という致死率の高い疾患につながる危険性がある以上、本来は極めて限定的かつ例外的に行われなければならない。法律等でも「必要最小限の範囲」と定められている。

両手、両足と胴の5点拘束をされるとほとんど身動きが取れない(写真:長谷川利夫著『精神科医療の隔離・身体拘束』(日本評論社)より)

身体拘束がエコノミークラス症候群に結びつきやすいことは、すでに10年以上前から多くの学術論文が指摘し注目されてきた。「精神科医療の身体拘束を考える会」が把握するだけでも、2013年以降、全国で12件の死亡例がある。

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