コロナ禍を地球の警鐘として利する人への疑念 善と悪の対立構造を作り出す強力な動機付けに

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さて、それらの心理的障害を無事に切り抜けた者たちは、エネルギー自治やシェアリング・エコノミーといったもっともらしい方法にたどり着くかもしれない。しかし、これらは本質的に人々の相互扶助などに基づくコミュニティーが構築・維持されることを前提にしている。

地域社会や同業者組合などといったソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が退潮する中で、コミュニティーは今や希少財のようなものとなっており、多くの人々がその温もりから排除されている状況にある。狭き門なのだ。

そのうえ、コミュニティーの空白を市場が多様なサービスによって埋め合わせてきた経緯もあり、もはやその必要性を切実に感じているわけでもない。換言すれば、見ず知らずの他者や地球環境全体に配慮できる精神性そのものが、非常に恵まれた共同性に依存した「寛容資産」と呼ぶべきものによって成り立っているのだ。これは最後の障壁といえるかもしれない。

コロナ禍があぶりだした社会の脆弱さ

コロナ禍は、現在進行形でわたしたちの社会がいかに脆弱なものであり、政府の無策にもほとんど振り回されるがままで、見当違いの人々を敵に仕立て上げるものであるかをあぶりだしている。

今後も、このような同種の過ちは、未来に待ち受ける深刻な気候危機においても繰り返されることだろう。悪夢のような災害が次々と押し寄せ、将来の見通しが暗く、人と人のつながりがますます希薄化し、不満と嫉妬のスパイラルに陥る人々が増え、強権発動や終末論のような劇薬への期待が高まれば、ポピュリズム的なものを避けることは至難だろう。

わたしたちは、かくも困難な状況下において、不可能な任務を遂行せよ、と鼓舞(こぶ)されているかのようである。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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