モノライン保険会社の危機とCDSによる信用収縮の連鎖の衝撃 米経済を揺るがすサブプライム問題
モノライン保険会社の危機が続いている。大手のMBIAとAmbacをめぐる資本増強策や建て直し策が、今年に入り、検討されてきたが、依然として、解決には至っていない。
2月29日にはホワイト・ナイトの一人になるのでは、と期待されていた米国の有力投資家で再生案件への投資を行ってきたウィルバー・ロス氏が保証規模で5位のアシュアード・ギャランティへの10億ドルの投資を決めた。ロス氏がアシュアードを選んだ理由としては、米国の主要3格付け会社からAAAの格付けを得ており、投資が単なる資本の損の穴埋めとならず、それによって収益機会を得るからだとしている。
アシュアードは2003年以降、CDO(債務担保証券 注1)に対する保証を行っていなかったという。MBIAやAmbacにとっては、厳しい状況下でライバル会社がより強力になることを意味する。2月29日にAmbacは1株あたりの配当金を7セントから1セントに引き下げ、6カ月間の証券化商品の保証引き受けの停止を発表し、引き続き資本増強を目指すと発表している。
そして、3日、ファイナンシャル・タイムズ紙は、シティグループやUBSを中心とする銀行団による、Ambacに対する奉加帳式の支援が暗礁に乗り上げていることを報じた。20億~30億ドルの出資をする条件として、Ambacが地方債の保証ビジネスとストラクチャード・ファイナンス(注2)の保証ビジネスとを分割する、という提案を、Ambac自身が拒否することを決めたという。
デフォルトが発生しにくいはずだったが…
モノラインとは、一般の保険会社と異なり、債券のスケジュールどおりの元利払いを保証するという単一の事業を行っていることから、モノラインと呼ばれる。
保証業務を行うという役割から、AAAの格付けを維持できるように、格付け会社の基準に従って十分な資本を積んでつくられる。地方債など公的セクターが発行する債券およびABS(資産担保証券 注3)などのストラクチャード・ファイナンスのシニア部分(元利払いが優先的に行われる部分)のみへの保証を行うため、デフォルトも発生しにくいとされていた。
一方で、ストラクチャードファイナンスの保証の場合、担保となる資産の格付けを基準に、必要な資本を積む構造であるので、一般的な企業の信用リスクをとる金融機関に比べると、もともとの資本は小さい。
ところが、ABSの再証券化商品であるABS-CDO(注4)において、サブプライム住宅ローンを裏付けとしたRMBS(注5)が組み込まれていたことから、保証していたABS-CDOのシニア部分に大幅な格下げが相次いだ。
ABS-CDOには契約上、一定の格付けから下がると、損失を防ぐために追加の担保をいれることという契約が入っていることが多い。保証会社がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ 注6)による保証をしていた場合に、保証会社が投資適格格付けでなければ、ABS-CDOは時価評価を求められ、担保を積むことも要求される。担保を積むことが出来なければ、契約上デフォルトとなる。ちなみに、先頃決算を発表したAIGはスーパーシニア部分のCDS取引で税引き後で146.9億ドルの損失を発表している。
相次ぐ大量の格下げ。それに加え、累積デフォルト損失額が倍増するほど状況が変わってしまったことにより、格付け機関が当初想定したベースとなるモデルの変更を迫られたことにより、さらにはリザーブ(準備金)の代わりになる保有証券の時価評価によって、モノラインには資本不足の問題が出てきた。格付け機関は、昨年夏以降、影響が大きいこと、また、自らがモノラインの設計に深く関与していたために、モノラインの格下げには尻込みしていたが、損失見込み額が拡大を続けていることから、昨年暮れからは増資により、それを補填できなければ、格下げを警告せざるをえないという状況になった。
昨年にはCDOを積極的に保証してきた中堅のACAキャピタルが事実上破綻し、今年に入って、フィッチはXLキャピタル・アシュアランスとXLファイナンシャル・アシュアランスを擁するSCAの格付けをAに引き下げ、次いでFGICもAとした。注目される最大手のMBIAとAmbacだが、MBIAはウオーバーグ・ピンカスの支援により計16億ドルの増資をしたにもかかわらず、フィッチから格下げ方向で見直し、S&Pとムーディーズはアウトルック・ネガティブを継続されているし、AmbacはフィッチからAAに格下げされており、S&P、ムーディーズとも格下げ方向での見直しを解除していない。