ゴールデンカムイに見る「アイヌ」の食の知恵 味つけには少量の塩。みそは使われなかった

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アイヌ文化にはさまざまな食の知恵があります(画像:『ゴールデンカムイ』2巻8話より。© 野田サトル)
2018年に手塚治虫文化賞でマンガ大賞を受賞し、アニメ化も果たした野田サトル氏による累計発行部数1500万部超の大ヒット冒険活劇漫画「ゴールデンカムイ」。同作をきっかけにして、初めてアイヌ文化に興味を抱いたという人も少なくないのではないでしょうか。ゴールデンカムイのアイヌ語監修で千葉大学文学部教授の中川裕氏が上梓した『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』を一部抜粋・再構成し、お届けします。

「ゴールデンカムイ」にはオソマという言葉がよく出てきて、大変有名になってしまいました。作中では「うんこ」という意味で使われていますが、正確に言うと「大便をする」という動詞です。ただし、「うんこ」の意味で使われることもありますので、その用法でも間違っているわけではありません。

同作のヒロインのアシㇼパ(※「リ」はアイヌ語固有の小文字で表記)が初めて見たみそをオソマだと思って、食べるのを拒否するという話は漫画の中でも大変人気のあるシーンのひとつですが、これは野田先生が実在の人の体験談をもとにして考えたエピソードで、私も1900年前後の生まれの人たちから、みそなんてものは嫁に行くまで知らなかったという話を聞いています。1890年代生まれで、両親ともアイヌの家庭で育ったアシㇼパがみそを見たことがなくても不思議はありません。

アイヌの食生活の中心だった「鍋物」

いきなりオソマの話から始めてしまって恐縮ですが、これはアイヌ文化を探るにあたって重要な話で、つまりアイヌ料理に本来みそ味の料理はなかったということです。もちろん現代のアイヌの人たちは、生まれたときからみそ味に親しんでいますので、みそ料理が「お袋の味」だという人も多いでしょう。

作中の1コマ(画像:『ゴールデンカムイ』2巻8話より。© 野田サトル

ただ、ここではアシㇼパの時代の食生活を考えてみようということです。かつてのアイヌの食生活において、その中心だったのはオハウ「鍋物」でした。

鍋に肉や魚や山菜などを入れて煮込んだ料理です。このとき、味つけに使うのは、みそでももちろんしょうゆでもなく、塩でしたが、それもごく少量で、関東や東北地方の鍋から見たら、かなりの薄味でした。むしろ素材そのものについている味が調味料の役割を果たしていました。

その1つの味の源になっていたのが燻製です。現代の私たちは、鍋物というと生の素材を使うのが普通ですが、もちろんそれは流通と冷蔵技術の発達した現代ならではのことで、昔は生のものを食べるのは、とれたそのときのことに限られました。それ以外の時期は、保存食にしてあるものを食べることになります。

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