民意に反する「弱者の独走」

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民意に反する「弱者の独走」

塩田潮

 与党3党の間が再びぎくしゃくしてきた。国民新党の亀井金融・郵政改革担当相がゆうちょ銀行の預入限度額引き上げで「独走」している。一方、普天間問題で昨年暮れに「重大な決意も」と社民党の主張を声高に叫んだ福島消費者相が連立維持優先の柔軟路線に転じ、党内から不満が噴き出るという展開だ。連立の力学に微妙な変化が生まれている。

 原因は「民主112、社民5、国民新5」から「民主115、社民5、国民新6」へ、半年間の参議院の勢力図の変化が大きい。民主党は衆議院では圧倒的多数だが、参議院は単独では過半数の122に届いていない。政権発足時の昨年9月、連立を組んで、統一会派に属する新党日本を含め、やっと与党で過半数を1議席超えた。その後、補選勝利と自民党離党者の入党で、民主党は3増、国民新党も1増となる。与党全体で過半数を5人、上回った。その結果、社民党を除いて過半数の122、国民新党が抜けても半数の121となる。最近の社民党と国民新党の「独自の動き」は、この数字が隠れた要因である。

 チーム内の少数派や弱体勢力が、言い分を聞かなければチームを抜けるぞと言って多数派や中核勢力を脅して要求を通そうとする手法を「弱者の恐喝」というが、社民党は昨年暮れ、このカードを振りかざした。だが、「社民党抜きで過半数」となったため、今度は「恐喝」に走れば、与党離脱、「政界の孤児」も覚悟しなければならない。他方、代わって「恐喝」カードを手にした国民新党が走り始めた。亀井氏はいまの構図は7月の参院選までと見通していて、民主党の弱体化が目立ついまが「恐喝」の好機と見たのだろう。

 だが、議席数は民主主義の下での民意の反映である。少数意見の尊重も大切だが、民意に反する「弱者の独走」を許せば、政権の正統性が疑われる。鳩山首相が衆参の選挙の結果を踏まえ、正論と王道に基いて連立政権を牽引する形を示せば、「漂流政権」の悪評を払拭する第一歩となるのではないか。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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