ネズミも「孤独」にストレスを感じる生き物だ そしてネズミも「諦める」ことを知っている

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お祭りの出店のくじを諦めずに最後まで引いても、流行りのゲームソフトや有名テーマパークのペアチケットは当たらないことが多い。つまり、場合によっては諦めたほうが損失を減らすことができるので、諦めるという選択肢があるのだ。

ウォルト・ディズニーは言った。

「夢を求め続ける勇気さえあれば、すべての夢は必ず実現できる。いつだって忘れないでほしい。すべて1匹のネズミから始まったということを」

夢は叶えようとするかぎり、その道の先で待っている。しかし、それができなかったからと言って、自分を責めすぎる必要はない。

なんと言ったって、ネズミも諦めるのだから。

「諦め」か「適応」か

そして、諦めるまでのスピードも個体によってかなり差がある。

そのため、この諦めている時間の長さを計測する、強制水泳という行動実験がある。ラットやマウスを脚がつかない深さの水に入れると、最初のうちは泳いだり、壁をよじ登ろうとするなど生存のための逃避行動をとるが、次第に動きが少なくなって無動状態になるのだ。こうなると、ただ試験時間が終わるのを待つばかりである。

これがネズミの「諦め」であると定義され、無動状態の長さがうつ状態の指標として用いられている。

主にうつ状態の解明や薬品開発のために行われている行動試験で、抗うつ剤を投与することで無動状態が短縮される。

この強制水泳試験は1977年に確立されて以来、長らく用いられてきたが、近年はこの基準に異論を唱える声も出てきた。

今までマウスやラットが泳ぐことを諦めて無動状態になることを、「うつ状態」「絶望」といった生存を諦めている状態だと仮定してきたが、むしろこの不動状態は状況への適応ではないかという考え方が出てきたのである。

水難事故のときは「浮いて待て」と言われている。事故の際、泳いで戻ろうとするよりも、背浮きで静かに呼吸をしながら救助を待ったほうが助かりやすいからである。濡れた衣服は想像以上に重くまとわりつくし、パニックを起こして体力を失ってしまうこともある。

つまり、人間が同じ状況になったときには、諦めているネズミの行動が推奨されているのだ。

無動状態の真相はネズミのみぞ知るだが、著者個人としては諦めているネズミの中にも、チャンスがくるまで体力を温存しているネズミがいるのではないかと思う。

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