ネズミも「孤独」にストレスを感じる生き物だ そしてネズミも「諦める」ことを知っている
見た目の似ているネズミの仲間でも、孤独を好むか否かは分かれている。
例えば、ペットとして人気のハムスターは単独生活を営む〝孤独派〟の動物だ。よかれと思って複数で飼育すると、愛らしい見た目にそぐわない流血騒ぎを見ることになるかもしれない。
特定の種類や子供のときから一緒にいる姉妹同士といったケースであれば同居に成功する可能性もあるが、避けられる争いは避けたほうが賢明である。
しかしながら、前述のとおり、元をたどれば今日の私たちが見るシリアンハムスターは、みんな親戚同士である。齧歯目の繁殖力の強さを痛感するだろう。なにせ、地球上で最も繁栄しているのはこの齧歯(げっし)目の仲間だからだ。力の弱さを数で補うのが齧歯目流である。
マウスやラットといったネズミは群れで生活している。ドブネズミ(ラット)といえば、下水道にわらわらと複数で生活しているイメージもあるのではないだろうか。飼育しているとよく喧嘩をしているのを見るが、意外に仲間といることを好む動物なのである。
麻薬よりも魅力的な「仲間との交流」
ネズミは群れで生活を行うというだけではなく、孤独になることでストレスを受け、行動までが変化することが証明されている。
餌や水は豊富にあるラットのいない島に1匹のラットを放ったところ、仲間を探し求めて、ついには小さな体で隣の島まで400メートルを泳ぎ着いた、というエピソードからも仲間への執着の強さがうかがえる。
ペットとしてラットを飼う人の中では、単独飼育すべきか複数飼育すべきかがしばしば話題にのぼる。単独飼育を行えば、飼い主を唯一の仲間としてより懐いてくれるし、複数飼育をしていれば、十分に構ってあげられなくてもラット同士が仲よくなってストレスなく過ごすことができるからだ。
実験では、この特性を利用してマウスやラットを数日間から数週間、単独飼育することでストレスをかけることがある。
孤立状態にあったネズミは、複数匹で飼育されているネズミに比べて攻撃的であったり、不安行動が強かったりといった特徴を見せる。
ラットを孤立させる有名な実験に「ラットパーク実験」がある。発表当時は批判も多かった実験だが、近年は孤立状態に関する研究も数が増え、この研究論文の引用数も多くなっている。
単独飼育されているラットと、通常の200倍の広さで様々な遊具やたくさんの仲間がいるケージで自由に飼育されているラットを用意する。モルヒネ(鎮痛効果のある麻薬)入りの水と普通の水を置いておくと、前者はモルヒネ入りの水を好んで飲むが、後者のほとんどは普通の水を摂取し、モルヒネ入りの水を飲むものはごくわずかであった。そして、前者のモルヒネ依存状態のラットを後者のケージに移したところ、普通の水を飲むようになったという。
ラットにとって仲間との交流は依存性の強い麻薬よりも魅力的なものであったと考えられるし、孤独によるストレスがラットをモルヒネ依存に追いやったとも考えられる。
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