ネズミも「孤独」にストレスを感じる生き物だ そしてネズミも「諦める」ことを知っている

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また、単独飼育を行ったマウスを再び集団の中に戻すと、社会的接触に対して敏感になり、単独飼育を行う前よりいっそう社交的になるという研究がある。

この傾向は集団の中でヒエラルキー(序列)の高いマウスほど顕著に現れ、下位に属していたマウスはそれほど活発にならないというのも面白い。

ヒエラルキー上位の個体にとって集団は快適で素敵な報酬であるため、より孤独の影響を受けやすいと言えるし、下位の個体にとってはそれほど魅力的ではないという研究結果は、人間に置き換えても納得ができる。陰気な人間に属する著者としては、後者の個体に感情移入してしまう。そんな事実を熱心に研究され世界に発表されるとはヒエラルキー下位のマウスもお気の毒だが、是非とも種族を超えた熱い握手をかわしたい。

孤独への耐性のなさは、ネズミという種の全体的な傾向であるが、当然、前述のように個体差は存在する。ほかのネズミとどうにも共同生活を送ることが難しく、すぐに喧嘩をふっかけていたネズミを単独飼育したら、のびのびと生活できるようになるケースもある。

私たちもネズミ同様に孤独に弱い生き物だ。それは進化の過程において集団生活を営んでいるほうが生き延びやすかった経験が私たちの遺伝子に根を下ろし、孤独に対して不安や苦痛を感じさせているのである。

私たちの孤独感は時代とともに少しずつ変わっている。家族という群れの大きさは核家族化によって小さくなっているが、テクノロジーの進化に伴い、遠く離れた人とでもコミュニティーを作ることが容易になった。協力して狩猟や採集を行わなくても、食べ物を手にいれることができるようになった。

私たちも個体差に合わせて孤独と集団を自分の意思で自由に選べる新しい生態を獲得している最中なのかもしれない。

ネズミも人もおおよそ孤独に弱い生き物であるが、例外は必ずあるのだから。

ネズミも諦める

「諦めないこと」は、長らく代えがたい美徳として信じられてきた。

「諦めないこと」がそれほど素晴らしいことであるならば、私たちの基本的な機能として搭載しておいてほしいものであるが、「諦めないこと」ができる人は数少ない。

数少ないからこそ、類いまれなる長所として存在し続けることができるのだろう。

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