長崎に「中国製フリーゲージ」が走る日は来るか 日本のFGTとは違う軌間可変システムを採用?

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一方で中国の場合、軌間非可変ながら車体装架タイプの高速車両(イタリア「ペンドリーノ」向けの技術をベースに開発したCRH5形)を2007年に導入しており、経験値は比較的高いといえる。

中国の高速車両CRH5形(写真:Aleksei Nikolaev/iStockPhoto)

もうひとつ気になるのは車両の重さだ。日本の鉄道の高速化では、車両の軽量化がとくに重視されており、東海道・山陽新幹線のN700Aや東北新幹線のE5系などの軸重(車軸にかかる重さ)は11トン台。日本FGTの第3次試験車もこれと同等に収まっている。

一方、中国や欧州など大陸の鉄道の高速車両は地盤が堅固なこともあってか、日本の高速車両より重いものが多い。ドイツの高速車両「ICE」の軸重は12~14トンだし、CAF「BRAVA」を採用したスペインのFGT・S120形電車も約16トンだ。中国FGTの軸重は確認できていないが、「BRAVA」と同じ方式ならS120形と同程度の可能性はあるだろう。

中国開発の目的は「一帯一路」

車両が重ければ重いほど軌道の破壊が進み、とくに高速車両が運転される路線では線路のメンテナンスにかかる費用も高くなる。情報が少ないものの、仮に中国FGT(の技術)を導入したとしても、採算が取れる可能性は低いのではないだろうか。

そもそも、中国がFGTの開発に着手したのは、ユーラシア大陸の広域経済圏構想「一帯一路」政策によるところが大きい。中国の軌間は1435mmでほぼ統一されているが、隣接するロシアやカザフスタンなどは1520mm。現在は国境での台車交換によって直通しているが、台車交換が不要なFGTなら大幅な時間短縮が可能で、一帯一路の強化につながる。日本の「FGT市場」など、はなから視野に入っていないだろうし、日本の鉄道にあわせたFGTを開発するつもりもないだろう。

ただ、開発開始から4年ほどで実車の製造にこぎ着けたのは驚異的だし、その技術力をばかにすることもできないだろう。それに日本の鉄道への導入は困難でも、海外には「FGT市場」が一定数あるし、技術力のアピールにもつながる。日本も長崎ルートへの導入の是非にかかわらず、何らかの形でFGTの開発を継続すべきとも思う。

草町 義和 鉄道プレスネット 記者

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くさまち よしかず / Yoshikazu Kusamachi

1969年新潟県南魚沼市生まれ。鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』を運営する鉄道プレスネットワーク所属。鉄道誌『鉄道ファン』『鉄道ジャーナル』などでも記事を執筆。著書に『鉄道計画は変わる。』など。

 

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