吉田羊「脇役でも視聴者の心を打つ」彼女の真髄 「黒歴史」「熱愛報道」にも負けない女優の存在感

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産科医を描く「コウノドリ」(2015・2017、TBS)では、医師ではなく助産師の役。漫画原作では、お団子ヘアで年齢不詳の助産師こまっちゃん。初めは違和感もあったのだが、シーズン2にきて「なるほど」と思うエピソードがあった。

こまっちゃんは子宮腺筋症と卵巣チョコレート嚢胞で、子宮全摘手術を勧められる状態に。母になる人生と母にならない人生の何が違うのか。親もきょうだいも夫も子供もいない、天涯孤独なこまっちゃんは悩む。自分と向き合い、泣きながら手術を決意するという展開。

ガラッパチ姉御というだけなら誰でもいい。助産師だが子供をもてない悲しみを乗りこえた先まで演じるこまっちゃんの役は、ウエットになりすぎずに、豪胆と繊細をきっちり表現できる羊姐さんが適役だったのだ。

もちろん、背負わされすぎるのもどうかとは思う。「メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断」(2016年・フジ系)は、羊姐さんの主演作だ。解析診断部の女医たちの活躍を描くオリジナルの医療モノだが、些末で見落としがちな症状が実はこんな病気だったと思わせる「奇病難病あるある大事典」のようで、わりと興味深く観ていた記憶がある。

羊姐さんは脳神経外科医の役だが、手術の最中に幻覚を見てしまうほどのトラウマを抱えている。もう途中からは要加療状態。医者ではなく患者の域。医者の不養生どころの話ではなくて痛ましすぎたし、そんな不安定な脳神経外科医が手術をすること自体が怖すぎた。背負わせるにもほどがある。ホラーに近い状況は視聴者をドン引きさせちゃうのよね。重すぎる背景に、世間の評価も決して高くはなかった。

とはいえ、凄絶な過去や悲劇を乗り越えて今がある、という役は羊姐さんの十八番。愛想笑いや追従笑いをしない理由や背景を、観る者にじわじわと伝えていく。

完全に主役を食う怪演も

たとえ脇役で出番が少なかったとしても、視聴者の心を虜にすることがある。「主役を食う」とよく言われているが、羊姐さんもこれができる人だ。まっさきに思い浮かぶのが、「ナオミとカナコ」(2016年・フジ系)だ。

奥田英朗の小説が原作、広末涼子と内田有紀が主演だ。広末はやり手のキャリアウーマン。DVに苦しむ親友の内田を救うために、DV夫(佐藤隆太)を殺害する完全犯罪を計画。佐藤にそっくりな不法滞在の中国人を利用して失踪を装うが、あちこちから横やりと邪魔が入って……というクライムサスペンス。

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