僕が「ヒット曲」と言われるとモヤモヤする理由 それは「ヒット」なのか「ホームラン」なのか

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しかし、新人は違う。1点取ろうと思ったらホームランを狙わねばならない。それはもう、打席に入るときの気分も、狙い球も違うし、スイングも大振りになる。もはやすべてが別物だと言っていい。新人がインパクトを重視した曲をリリースしがちなのは、それが「ヒット」をねらっているのではなく「ホームラン」を狙っているからである。とにかく点を入れないことには敵に勝てないからである。

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この世に「ヒット曲」という言葉はあるのに、「ホームラン曲」という言葉はないから、その辺の感覚がなかなか相手にうまく伝えられなくて、インタビューで急にヒット曲について聞かれても、答えるのが難しくなる。

たぶん、私は野球部だった経験があるので、なおさらこんなことを思うのかもしれない。野球というスポーツでは、俊足巧打のバッターはバットを短く持って野手の間を抜くようにボールを転がして打つから打率が高かったりする。逆にパワーヒッターはつねにバットを長く持ち、豪快なスイングでホームランを放って観客を魅了する。こういうパワーヒッターは打率こそ低いが、打点とホームラン数が多く、打順的にも勝負どころで打席が回ってくることも多く、いわゆるスーパースターの系譜であるといえる。

「一発屋」という言葉

と、私は野球の話を書いているだけなのに、「これらは音楽界のメタファーです」と言われたら、とたんに俊足巧打の打者ってあのバンドかな、パワーヒッターってあのアーティストかな、みたいに誰かしらの顔が何となく思い浮かんでくる感じがしないだろうか。

お笑い芸人の世界には一発屋という言葉があるが、そういえば野球ではホームランのことを「一発」と言ったりする。キャッチーなネタでブレイクしても、トーク番組でうまく立ち振る舞えないとテレビの世界で活躍し続けるのは難しいと聞く。長く活躍している芸人の話しぶりは、まるでトークの中でコンスタントにヒット(単打)を打ち続けてるかのように見える。エンターテインメントの世界は意外と野球に例えられるのかもしれない。

いしわたり 淳治 作詞家・音楽プロデューサー・作家

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いしわたり じゅんじ / Junji Ishiwatari

1977年生まれ。青森県出身。1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シングル15枚を発表。そのすべての作詞を担当する。2005年のバンド解散後は、作詞家として、音楽プロデューサーとして、数多くのアーティストを手掛ける。現在までに600曲以上の楽曲制作に携わり、数々の映画、ドラマ、アニメの主題歌も制作している。音楽活動のかたわら、映画・音楽雑誌等での執筆活動も行っている。ソニー・ミュージックエンタテインメントRED所属。

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