コロナ第3波、財政は「医療崩壊」を救えるか 最大の支障は財源ではなく、医療従事者の不足

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4月に緊急事態宣言が出され、新型コロナ以外の患者の受診が手控えられ、医療機関は大きな減収に直面した。宣言解除後、緩やかに受診患者数が回復し、医業収入が増えてきたところに、第3波が襲った。

受診控えがかなり起きているなら、医療従事者にも少し余裕がありそうだが、決してそうではない。コロナ後の病院経営を見据えると、新型コロナ以外の患者をないがしろにはできない。新型コロナに対応する医療従事者を増やせば、新型コロナ以外の患者に対応する医療従事者が減ってしまう。そのジレンマが医療現場にはある。

財政支援だけではすべて解決できない

加えて、新型コロナ対応に注力するために、新型コロナ以外の患者を一時転院させることにした病院にとっては、転院した患者がコロナ後に戻ってきてくれないと、コロナ後の病院経営に差し障る。さらに、新型コロナ患者を受け入れていない医療機関から、受け入れる医療機関に医療従事者を一時的に派遣しても、その従事者が派遣後に元の職場に戻ってきてくれる保証はない。だから、派遣に踏み切りにくい。そうなると、新型コロナに医療資源を集中しようにもしきれない面がある。

これらは新型コロナ向け財政支援を強力に進めても解決できない問題である。患者の転院や医療従事者の新型コロナ向け派遣に手厚く財政支援しても、医療崩壊を防ぐのに役立たないかもしれない。患者がどこの医療機関を受診するかや、医療従事者がどの医療機関で勤務するかはまったくの自由だからである。

医療向けの財政支援は金額的に十分なものだった。しかし、医療従事者の逼迫を解消する支援に注力しつつ、新規感染者をこれ以上増やさない方策をもっと講じなければならない。新型コロナに対応する医療従事者の数を増やすには限界がある。

新規感染者の抑止と経済活動の両立を考えると、むやみに自粛要請は出せない。医療関係者が強く要請するGo Toキャンペーンの一時停止も、Go Toキャンペーンが原因であるというエビデンスはないとの話もあって、議論が錯綜している。

他方、県をまたいだ移動が感染拡大を助長したエビデンスは出されている。ならば、飲食店の営業自粛要請よりも、県をまたいだ移動自粛の方が感染防止に効果があるだろう。Go Toキャンペーンが継続していると、都道府県知事は県境をまたいだ不要不急の移動を控えるように、とはなかなか言い出せない。

Go Toキャンペーンにこだわらず、移動や人的接触をどのように抑制すれば感染拡大防止に効果的なのか。それと整合的なものに厳選して必要な財政支援を講じるのが、第3波を抑えることになる財政支援であろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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