オークションが可能にする「新たな資本主義」 天才経済学者による「ラディカル」な思考実験
西側でいちばん格差の大きな国
ある夏のこと、筆者の1人はリオデジャネイロに滞在していた。リオは世界でいちばん美しい自然に恵まれた都市だ。
緑豊かな熱帯の丘が広がり、数々の島が浮かぶ青く輝く湾へと続く景色は本当にすばらしい。しかし、その丘は「ファヴェーラ」で覆われている。ファヴェーラとは、粗末なバラック小屋が並び、基本的な衛生施設も輸送機関もないスラム街である。
ラテンアメリカで最も裕福な地域であろうレブロンは、こうした丘のふもとにある。そこではステータスシンボルの代表である高級な腕時計や車を買うことができる(激しいインフレで高騰した価格ではあるが)。
ところが、レブロンの住人たちは、通りで腕時計を身に着けようとはしないし、夜に赤信号で車を止めることもない。丘の上にあるファヴェーラではびこる暴力に巻き込まれることを恐れているのだ。リオは世界でも有数の危険な都市である。
「カリオカ(リオの住人は自分たちのことをこう呼ぶ)」は、のんびりしていて、親切で、創造力が豊かで、おおらかだ。
カリオカは人種の違いについてアメリカ人ほど意識していない。アメリカでは、白人と黒人の間に明確な線引きがある。ブラジルにもアメリカにも奴隷制度の長い歴史があるが、ブラジルは誰もが混血の子孫である。にもかかわらず、肌の色で階級が決まり、階級意識がブラジル社会に深く根差している。