オークションが可能にする「新たな資本主義」 天才経済学者による「ラディカル」な思考実験

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ますます進行する一部の富裕層による富の独占。私たちはこの問題を是正することができるのだろうか?(写真: Elnur/PIXTA) 
21世紀を生きる私たちには3つの課題がある。富裕層による富の独占、膠着した民主主義、巨大企業によるデータ搾取だ。この難問に独自の解決策を見いだそうとする野心的な理論書が、気鋭の経済学者として名をはせるグレン・ワイル氏を共著者とする『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀 公正な社会への資本主義と民主主義改革』だ。本書から一部、抜粋・編集してお届けする。

西側でいちばん格差の大きな国

ある夏のこと、筆者の1人はリオデジャネイロに滞在していた。リオは世界でいちばん美しい自然に恵まれた都市だ。

『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀 公正な社会への資本主義と民主主義改革』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

緑豊かな熱帯の丘が広がり、数々の島が浮かぶ青く輝く湾へと続く景色は本当にすばらしい。しかし、その丘は「ファヴェーラ」で覆われている。ファヴェーラとは、粗末なバラック小屋が並び、基本的な衛生施設も輸送機関もないスラム街である。

ラテンアメリカで最も裕福な地域であろうレブロンは、こうした丘のふもとにある。そこではステータスシンボルの代表である高級な腕時計や車を買うことができる(激しいインフレで高騰した価格ではあるが)。

ところが、レブロンの住人たちは、通りで腕時計を身に着けようとはしないし、夜に赤信号で車を止めることもない。丘の上にあるファヴェーラではびこる暴力に巻き込まれることを恐れているのだ。リオは世界でも有数の危険な都市である。

「カリオカ(リオの住人は自分たちのことをこう呼ぶ)」は、のんびりしていて、親切で、創造力が豊かで、おおらかだ。

カリオカは人種の違いについてアメリカ人ほど意識していない。アメリカでは、白人と黒人の間に明確な線引きがある。ブラジルにもアメリカにも奴隷制度の長い歴史があるが、ブラジルは誰もが混血の子孫である。にもかかわらず、肌の色で階級が決まり、階級意識がブラジル社会に深く根差している。

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