オークションが可能にする「新たな資本主義」 天才経済学者による「ラディカル」な思考実験

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経済に目を向けると、ブラジルは西側で格差がいちばん大きい国だ。ブラジルには豊富な天然資源があるが、国の富の大部分を一握りの一族が支配しており、ブラジル人の10%近くが国際貧困ライン以下の暮らしを送っている。

本書を執筆している時点では、前大統領は権力を濫用したとして罷免され、その前任者は汚職の罪で刑務所に入っている。現職大統領は汚職疑惑で追及を受けており、支持率は1桁台だ。

本書が出版される頃には収監されているだろう〔訳注:2018年に任期満了をもって退任〕。ブラジルの生活水準は長く停滞している。起業家精神は希薄だ。

行き詰まった改革の処方箋

なぜ、この楽園は失われてしまったのだろう。どうすれば潜在能力を発揮できるようになるのだろう。この問題をめぐる論争はありきたりのものだ。

左派:政府は金持ちに課税して、貧しい人たちに家や医療や仕事を供給するべきだ。
右派:それではベネズエラやジンバブエになってしまう。政府に求められているのは、国有産業を民営化し、財産権を徹底し、税率を引き下げ、規制を減らすことだ。経済が回り始めれば、格差はおのずと解消する。
テクノクラート的中道派:いま必要なのは、国際経験豊富なエキスパートたちが経済を慎重に調節すること、ランダム化比較試験で効果が確認されている介入を対象を絞り込んで実行すること、そして、政治改革を断行して人権を保護することである。

格差が拡大している豊かな国の人々は、自分たちの国にブラジルを見いだすことになるだろう。豊かな国でも、経済が停滞し、政治対立や腐敗が広まっている。

ブラジルのような「途上国」はやがてアメリカのような「先進国」になると長く信じられてきたが、その通説には厳しい視線が注がれており、逆の方向に進んでいるのではないかという疑問が芽生え始めている。

それなのに、改革の標準的な処方箋は半世紀の間変わっていない。増税して再分配する。市場を強化し民営化する。あるいは、ガバナンスを向上させ専門知識を強化する――。

リオでは、こうした処方箋は明らかに行き詰まっている。貧困は解消されず、土地は中央集権的なやり方で厳格に管理され、政治は対立している。

この3つは密接に結びついているように見える。富の再分配がうまく行われていないせいで、格差はほとんど是正されていない。財産権が十分に改善されていないので、経済発展にはなかなかつながっていない。公共の公園や自然保護区、現代的な住宅地をつくれていたかもしれない土地がスラムになってしまっている。

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