さらに、「タカシマヤ・シンガポールの大きな特徴として、百貨店でありながら地下にスーパーマーケットも構えている。つまり、手頃な価格で買える普段遣いのようなものから、エルメスのような高級品まで、いろいろな商品をそろえた包括的な店舗作りを行っている。そのため一部のお客様にとって、敷居が高すぎたり入りにくいわけでもない」と言う。
東南アジアにおける中間層の増加もまた、同店舗の急成長を支えていることは言うまでもない。7割の客は国内の居住者だが、残りの3割はツーリスト(旅行客)だという。特に多いのはインドネシアから訪れるマレー系の旅行客で、ここぞとばかりに買い物をしたり、店内のいたるところで記念撮影をしているのを見かける。また近隣諸国の一部の富裕層も訪れ、高級店でばかり3時間で16万ドルの買い物をした客もいたそうだ。
激しい競争を勝ち抜いてきた「日本のノウハウ」
しかし、市場が伸びているということと儲かるということは、もちろん必ずしも一致しない。実際、タカシマヤ・シンガポールの開業当時、すでに日系の百貨店や小売店は、伊勢丹、名鉄、東急、西友、パルコ、ヤオハンなど多く出店していた。しかし今では、伊勢丹とタカシマヤ・シンガポールを残すのみとなってしまっている。
同店もまた、1993年の開業当時はたいへん苦戦を強いられたという。「シンガポールは赤道直下の国。ですから、こちらの人は衣料品におカネをかけません。今でこそ衣料品は極力抑え、その代わりにニーズの高いバッグや靴、下着などの雑貨を充実させていますが、開店当初は日本のマーチャンダイジングの考え方を一定レベルで踏襲していたので、修正に次ぐ修正をしてきました。シンガポールは成長が早く人のライフスタイルもどんどん変わります。変化するお客様のニーズに合わせて、修正の歴史を重ねてきたのです」(吉野氏)。
同国における競争環境の厳しさはいくつもの要素が絡み合って出来上がっているが、特に、限られたマーケットサイズと高い賃料、そして政府主導で各駅に作られている大型ショッピングモールの存在が、主な要因ではないかと同氏は見ている。
また最近では、外資系の百貨店との競争も激しさを増しているという。タイのセントラル、ベトナムのパークソン、フランスのカルフールなどが進出の機会をうかがったり、実際に進出したり、撤退したりを繰り返している。
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