JR東「特急車内テレワーク」本当に仕事できるか 成田エクスプレスを両国駅に停めてオフィスに
テレワークは「自宅では落ち着かない」という人も少なくない。カフェに行ったり、レンタルオフィス、はたまたホテルを借りたりと、オフィスワーカーたちはこれまでにない対応を迫られている。「市街地の駐車場にあるカーシェアリング用の車を借りて、動かさないでテレワーク場所として使う」という活用事例もある。今回の実証実験の担当者である池下氏も、自分自身でこうした「動かないクルマ」をテレワーク場所として使った経験があると話していた。
テレワーク用スペースの確保が難しいという声も少なくない中、列車1編成を停めておくことで一気に100人以上が利用できるスペースをつくれる効果は大きい。今回は定期列車の発着がなく、事実上「イベントスペース」ともいえる両国駅3番線を活用したが、今後は日中の閑散時などに空いているホームを使って別の駅構内で実施するという可能性も生まれるかもしれない。
ただ、今後の実用化については「現時点ではまったく未定」と池下氏。「まずはさまざまなお客様からの意見などを踏まえて検討していきたい」といい、利用客のアンケート結果などを見ながらさらなる展開を考えるということだ。
日本独特?駅ナカシェアオフィス
こうした「鉄道車両を使ったシェアオフィスの展開」について国内外の事例はないか探してみたが、今回の実証実験以外にはないようだ。コロナ禍における鉄道車両の貢献といえば、インドでコロナの軽症患者向け施設として寝台車を病院代わりに使った例があるが、そもそも海外では日本のような「個室ブース型のシェアオフィス」や「駅ナカシェアオフィス」は一般的ではない。駅に停めた列車をシェアオフィスに活用しようという発想は非常に日本的かもしれない。
こうしたアイデアは海外で実践可能だろうか。世界各地にある都心駅の多くは、駅舎に向かって線路が突っ込む形の「櫛形ホーム」となっている。今回の実証実験で使われた両国駅3番ホームは、首都圏に残る数少ない「櫛形ホーム」の一つだ。今回のビジネスモデルは、スペースの有効利用という点では、世界各地ですぐにでも応用できそうだ。
ただ、海外の場合「駅でテレワーク」という点では、構内に設けられている「ファーストクラス用ラウンジ」がそうしたスポットの一つだろうか。コロナ以前にはビジネスマンたちは早めに駅に向かい、ラウンジで優雅にお茶を飲みながら仕事するといった姿が一般的だったが、コロナの感染が日本より重篤な欧米の主要都市は現在、厳しいロックダウン下にある。そもそも、「テレワークのために自宅からどこかへ行く」という活動自体が許されていないのが現実といえるだろう。
今回の実証実験は、JR東日本千葉支社が保有するさまざまな資産をテレワークの場所としてどう提供できるかを試すという意味合いが強かった。だが、今後テレワークがさらに広がれば、必ずしも自宅で仕事用のスペースを確保できる人ばかりでもない中で、作業場所をどうするかは重要な課題となってくるだろう。
そんな中、今回のアイデアはほかの鉄道会社やバス会社といった公共交通事業者も取り入れることができそうだ。電車で仕事に行くのではなく「電車に」仕事をしに行くという「車両を使ったテレワーク用シェアオフィス」は、コロナ禍における一つの収益源になるかもしれない。
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