「アメリカの実質金利」だけでドル円は語れない ドル安円高の進み方を予想するのに必要な思考

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繰り返しになるが、「為替の変化(円安)→国際競争力の変化→輸出の変化→需給の変化」という経路があって初めて、ある水準が「過剰な円安」といえるのである。だが、近年の日本ではこの経路が明らかに弱まっている。よって、構造変化を必ずしも反映しないPPPと比較して「過剰な円安」に見えても、それは過去の物価格差と経済構造を前提にした話であって、経済が構造変化の最中にある場合は機能しなくなってしまう。

円安と輸出がリンクしなくなった理由には諸説ある。基本的な事実を押さえておこう。

円安で輸出数量が増えるのは、外貨に対して安くなった円を利用して現地通貨建て(統計上は契約通貨建てと呼ぶ)の販売価格を値下げできるからだ。しかし、日本企業は2012年11月から2015年6月に約48%も円が対ドルで安くなったにもかかわらず、現地通貨建ての輸出物価を7.1%しか値下げしなかった。片や、円建てでは約20%の上昇が確認された。

これは日本企業が「粗利益=利幅×数量」の中で、数量を増やして市場シェアを押さえて粗利益を積み上げるのではなく、数量を据え置きにして利幅を厚くすることで粗利益を積み上げる戦略に転換したことを意味している。約48%も円安ドル高が進んだのに、輸出数量は5%も増えなかったのだから、貿易収支が黒字に転換するはずもない。

現地生産・現地販売の進展、新興国との競争激化

では、なぜ数量を追わなかったのか。これは大別すると数量を「追わなかった」のか、それとも「追えなかった」のかと分けて考える必要がある。例えば、過去と違って日本の輸出製品が高付加価値化しているので値引きしても売れる数量が変わらないという見立てから、敢えて数量を「追わなかった」という経営判断があったのかもしれない。

もしくは、現地生産・現地販売のアプローチが効率的という経営判断の下、海外生産移管が進んでおり、日本から輸出数量を増やすことが物理的に難しくなっており、「追えなかった」という事情も考えられる。東日本大震災を境としてリスクヘッジとしての生産移管も相当進んだと言われているから、これは有力な論点である。

もちろん、貿易はつねに相手がある話なので、理由は他にも考えられる。海外経済の(日本製品への)需要が芳しくなかったという事情もあるだろう。そこには当地の景気動向だけではなく、日本の競合となりそうな他の輸出国の存在も加味する必要がある。

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