『ガラスの巨塔』を書いた作家、今井彰氏(元NHKエグゼクティブ・プロデューサー)に聞く--現場の実情に弱い人は、現場人を過小評価する
--「プロジェクトX」(小説の中ではチャレンジX)の成功物語ばかりではないと。
たとえばテレビ局でいえばアナウンサーを含めて、東京で全国放送のゴールデンタイムの仕事をすることがテレビマンの夢だ。地方局ではどんなにがんばっても放送枠そのものがなくて、オリジナルの放送をしようとしてもその可能性は小さい。
視聴者の多いいちばんいい舞台で戦いたいというのが現場人の目標であり、その頂点をめざしたい。そうでなくても、組織に所属しているサラリーマンは何かに駆り立てられるように、出世しようとしてもがく。そういう組織での行動原則みたいなものも小説の中に入れられればいいなと思った。
プロジェクトXは人様の話ながら、組織というもので生きている自分たちの話でもあると思えたから、支持されたのだろう。この小説も同じ思いが伝わればいいが。
--テレビ局を舞台とした小説は少ないですね。
「空気」がわからなかったからではないか。テレビ局の空気は何十年間かそこにいて、しかもいちばんハードに生きた人間以外にはわからないと思う。並の作家がテレビ局を書こうとしても、事実は書けても空気は書けない。もともとマスコミの会社は外部から見えづらいところがあるし、いままで書かれたテレビ局の小説で、その空気がしっかりわかる小説を読んだ記憶はない。
--マスコミでも、小説の中の『週刊実録』は現実にはあってほしくないジャーナリズムです。
一方で、『週刊ミリオン』のように、当事者を含め実名で裏をとって記述し、一つの会社の存亡を揺るがすまでに追い詰めていくところも書き込んだ。きちんと裏をとれる記者の力があるところもあれば、一方で、書きっぱなしのところもあるのは事実だ。