苦境のアパレル、コロナで直面した「人事改革」 リストラ頼みでは回復への道のりは険しい
2019年の消費税増税に暖冬、そしてコロナ禍と三重苦に見舞われた多くのアパレル企業は採用を一気に抑制し、再就職市場は冷え込んでいる。アパレル・ファッション業界専門の転職支援サービス「クリーデンス」の調査によると、新型コロナの感染が拡大した2020年3月以降の求人数は、EC関連の業務などを除いてほぼすべての職種で大きく減少した。
それでも、40歳以上を対象に希望退職者の募集を今年行ったオンワードHD(募集期間は1月)やワールド(同9月)では、募集人数を大幅に上回る社員の応募が集まった。希望退職の場合は通常の退職金とは別に特別金が支払われるとはいえ、これほど厳しい市場環境のさなかだ。別の大手アパレルの社員は「アパレル業界や会社の先行きを不安視している社員たちの心情の表れでもある。業界外への転職を考える人も多いだろう」と推察する。
下着の名門も人件費削減が課題に
消費環境の激変に直面し、リストラを実施していない大手でもコスト構造の見直しは待ったなしの状況だ。国内下着メーカー最大手のワコールホールディングスは新型コロナの感染拡大以降、ECは伸びているものの、稼ぎ頭である卸売りは百貨店を中心に販売不振が深刻化。売り上げの落ち込みに固定費圧縮が追いつかず、今2021年3月期は創業以来初の最終赤字を見込む。
「固定費の中でも人件費の高さは以前から課題認識していた。採用人数の抑制や自然減で対応する予定だったが、コロナ禍でそれでは済まない状況になってきている」と、同社の安原弘展社長は危機感をあらわにする。中でも抜本的な見直しを迫られているのが、社員の大部分を占める販売員の配置のあり方だ。
国内の売り場で働くワコールの販売員約3400人のうち、およそ7割は正社員。主力商品である中~高価格帯のブラジャーの販売では、専門知識を持つ販売員が採寸や体型の悩みに応じたカウンセリングを行い、その接客が売り上げに大きく貢献してきた。
が、ここ最近は主販路である百貨店と量販店の集客力が衰え、販売員1人当たりの販売高も徐々に減少。人件費が収益を圧迫するようになり、消費税増税や新型コロナの影響で売り上げが大きく落ちた2020年3月期は、同社の百貨店売り場の3分の1が不採算となった。
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