パナソニック経営刷新の後に待ち受ける大難題 楠見社長体制は計画的戦略を果たせるか

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市場地位別の戦略論では、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーと大きく4分類して論じている。ところが、近年見られるパナソニックが展開する事業領域では、リーダーが圧倒的優位を維持できる期間が年々短くなってきた。家電はいうまでもなく、車載電池でも、パナソニックは中国(寧徳時代新能源科技=CATLや比亜迪股份=BYD)、韓国(サムスン、LG)などと「つばぜり合い」を演じている。中でもCATLの台頭は著しい。パナソニックが最大得意先とし、津賀社長がイーロン・マスクCEOとトップ外交を展開していたテスラにも食い込んだ。

成長市場の誘惑に負け、いや、競争好きのパナソニックが、中国、韓国企業の手のひらでうまく踊らされているように見える。家電業界を知り尽くしたパナソニックは、「失敗の経験」から学べていないのだろうか。薄型テレビが出始めた頃、薄くなったテレビの画面を目にし、消費者だけでなく、テレビメーカー各社も「イノベーション」だと信じていた。ところが実態は、テレビという成熟(しきった)市場で見た最後の輝きであった。

成熟市場で見えた「線香花火現象」

薄型テレビ(プラズマ、液晶テレビ)が出始めた頃、シャープの町田勝彦元社長は「2005年までに国内のカラーテレビを、ブラウン管から液晶に置き換える」と宣言した。社員の誰もがその言葉を信じモチベーションが高まった。しかし、結果はご存じのとおりである。同社は液晶で天国と地獄の両方を見た。結果、台湾・鴻海(ホンハイ)傘下の企業になってしまった。

筆者は、「液晶のシャープ」の栄枯盛衰を「線香花火現象」と称している。その心は、花火という古い遊具に点火すると、美しい火花を散らすものの、短時間で消えてしまうからだ。薄型テレビがイノベーションであったとしても、無から有を生むブレークスルー・イノベーション(創造的破壊)ではなく、改善を積み重ねて結実するインクリメンタル(漸進的)・イノベーションであった。売る場はかつてのテレビという成熟市場であることに変わりない。

成熟市場での戦いをインクリメンタル・イノベーションで開発された個々の製品力だけに頼っていると、瞬く間に市場における既存のルールを根本的に覆し、まったく新しい価値を創出する破壊的イノベーションの犠牲になってしまう。

(後編に続く、11月29日公開予定)

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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