パナソニック経営刷新の後に待ち受ける大難題 楠見社長体制は計画的戦略を果たせるか

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津賀氏も危機感からか、厳しさを漂わせていたものの、筆者が同い歳であるからかもしれないが、中村氏ほどの怖さは感じられなかった。中村氏と同様、論理的な合理主義者だが、ときどき冗談も口にする演歌が好きな(広報担当者)気さくな大阪のおじさんの一面ものぞかせる。

一方、「裸の王様になっている」と指摘する津賀氏と同世代のパナソニック関係者(OB)の声も聞いた。経営者は孤独である、と言われる。津賀氏はそのことを自覚していたと思わせる発言をしている。

トップになると誰にも相談できない

「トップになると誰にも相談できないという経験を楠見さんには早くしてほしかったが、この数年間は、事業のトップとして、タフなデシジョンをしてきた。期待する経験を積んでもらったと思っている」

周囲の意見を聞いたうえで、最終意思決定を下すとき、トップは孤独と闘わざるをえない。Aさんの意見も取り入れよう、Bさんも一生懸命戦略を練ってくれたのだから一部取り入れよう、などと周辺各位に忖度(そんたく)していると経営のスピードも落ちる。その行為がときには、人の意見に耳を貸さない「裸の王様」に見えることがある。

最終意思決定を下したからには、大きな責任を負う。目標を達成しなくてはならないのである。ところが、社長といえども「たかが人」である。明日のことさえわからないという絶対的条件と向き合わざるをえない。今、世界中の人々が直面している新型コロナウイルス感染拡大など、誰が予測できただろうか。さように、当初策定した戦略のとおり、事が運ばないことは多々ある。人生そのものが不確実性の極みであるのだから、利益や機能を第一に追求するゲゼルシャフト(Gesellschaft=機能体組織、利益社会)で人が構成する企業は推して知るべしだ。

このことを整理した経営学の理論がある。ヘンリー・ミンツバーグ(カナダ・マギル大学記念教授)が『戦略サファリ 第2版』(東洋経済新報社)で論じた「計画的(計画された)戦略(意図された戦略)」と「創発的戦略(実現された戦略)」である。前者は、できる限り多くの情報を集めて起こりそうな未来を予測したうえで構築する戦略。後者はビジネスを実際に展開しているうちに、行動を積み重ねさまざまな経験をし、変化する現実に合わせて、計画的戦略を徐々に修正した戦略を意味する。

計画的戦略ばかりに執着し、変化への対応をなおざりにしたり、遅れたりすると、現実の障壁にぶつかりビジネスは成功しない。いわゆる「絵に描いた餅」となる。かといって、行き当たりばったりの創発的戦略を繰り返していると迷走し自滅する。ミンツバーグは、両戦略を掛け合わせるべきだと主張している。

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