パナソニック経営刷新の後に待ち受ける大難題 楠見社長体制は計画的戦略を果たせるか

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思い起こせば、社長就任(2012年6月)の前、津賀氏は突然ヒーローになった。中村邦夫元会長(元経団連副会長)の肝入りプロジェクトとして展開していたプラズマディスプレーパネル(PDP)事業からの撤退案を当時の経営陣に突きつけたからだ。

中村氏といえば、2002年3月期、携帯電話やパソコンの世界的な失速に見舞われ、上場後初の営業赤字に陥った同社をV字回復させ「中村改革」と一時称賛されたことで知られる。その功績が讃えられ、2020年秋・旭日大綬章を受章した。その中村氏を敵に回して苦言を呈したことから「はっきりものをいう改革者」として注目された。その結果、社長に就任した翌年の2013年10月に同事業からの撤退を正式に発表した。

津賀氏は壊し屋の中村氏と通じるものがあった

PDP事業は、年1000億円もの赤字を出したこともあっただけに、中村氏も腹の中では誰かが「撤退すべきだ」と言ってくれないかと待っていた節がある。その役割を大阪大学の後輩である津賀氏が引き受けてくれたのだった。当時社長を務めていた大坪文雄氏が次期社長の話を持っていくと、中村氏はその名前を聞く前に「津賀君ですか」と口にし、すぐに賛成したという。見方を変えれば、マスコミは津賀氏を「打倒・中村政権」を果たしたゲリラ革命家のように持ち上げたが、1万人超えの人員削減を断行した壊し屋の中村氏とは、大学の同窓であること以外にも、改革志向という共通点もあり、通じるものがあったと考えられる。

ここまで読むと、ノンフィクション本にあるようなパナソニック(旧・松下電器産業)のどろどろとしたトップ人事話か、今回の社長交代も安倍前政権さながらの「お友達内閣」と同じではないか、と思われるかもしれない。ただし、気心の知れた信頼できる後輩を後継者にする意思決定は一概に悪いとは言えない。結果がよければ、今日の味方は明日の敵となるような疑心暗鬼な組織よりも「お友達内閣」のほうがベターである。

近年、経営学でも見直されているファミリービジネスも「家族の仲がいい」ことが絶対条件になっている。仲が悪い親子げんか、兄弟げんかばかりしているファミリービジネスよりも、サラリーマン集団であっても仲がいい組織のほうが経営はスムーズにいく。

11月13日に行われた上記の記者会見の檀上には、津賀社長を挟み、楠見新社長(予定)とアナリスト出身の片山栄一常務執行役員(CSO=チーフ・ストラテジー・オフィサー)が座り質疑応答に対応した。

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