パナソニック経営刷新の後に待ち受ける大難題 楠見社長体制は計画的戦略を果たせるか

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VUCA(ブーカ: Volatility「変動性」、Uncertainty「不確実性」、Complexity「複雑性」、Ambiguity「曖昧性」)の時代と言われている昨今、創発的戦略は不可欠である。それ以前からも、経営戦略実行段階の軌道修正は、どの企業でも行われてきたが、今や後手の創発劇戦略は許されなくなってきている。ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、イノベーションを創出する「デザイン思考」が注目されているのもVUCA時代の要請であると考えられる。

津賀社長は社長就任9カ月後の2013年3月に、2015年度を最終年度とする中期経営計画「CROSS-VALUE INNOVATION 2015(CV2015)」を発表し、「パナソニックの創業100周年となる2018年度までに、自動車関連事業で2兆円、家電を除く住宅関連事業で2兆円の売上高を目標とする」というビジョンを表明した。2期連続で計1兆5000億円を超える最終赤字、63年ぶりの無配となり「普通の会社ではない状態」(津賀社長)に陥った中での起死回生策だった。しかし、後に両事業は基幹事業から外れることになる。

いったいこの計画的戦略の何が問題だったのだろうか。

旧来の経営資源を再整理したにすぎない

それは、一見、斬新な発想に見えるが、実は、旧来存続していた経営資源を再整理したにすぎない点だ。それに、その経営資源は市場環境から見て、高い成長性があるように見える。両事業のうち、自動車関連事業は“CASE”=Connected(コネクテッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)=の時代を迎えた。とくに、Electric(電動化)に関しては、三洋電機を買収することにより強化した車載電池がEV(電気自動車)の世界的需要拡大で大きな成長が見込めると判断したのだろう。

CASE時代を迎える自動車関連は有望市場だと見るのは「一般的な思考」である。成熟市場の定義にもよるが、技術革新が見られるから成長市場であると信じ込んでしまうと思わぬ死角に入ってしまう。成長性が高いと誰もが思う市場には、多くの企業が参入してくる。当社の技術は高度だから、なかなか追いつけないだろう、とリーダー(企業)ほど考えがち。だが、あっという間に「レッドオーシャン」と呼ばれる過当競争市場に巻き込まれてしまう。

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