海外帰国者「公共交通利用せず」守られているか 空港から乗ろうと思えば乗れてしまう現状

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筆者は14泊15日にわたる自己隔離の期間を終えて、ようやく国内線のフライトや電車に乗ってあちこち出かけられるようになったが、日本国内を出歩いてみて、コロナ対策への考え方が筆者の住む英国や欧州とは大きく異なることがわかった。

日本は「飛沫感染を食い止めよう」という観点から、飲食店ではテーブルの上にだけアクリル板が立っていたりするが、欧州では「人と人の接触を避ける」という考えのもと、他人との距離を1.5〜2m以内に詰めることを基本的に避けている。さらにいえば、「周りにいる人はコロナ陽性者かもしれない」という意識のもと、他人との距離を保つことが安全だという前提で行動している。

こうした基本的な認識の違いからすると、厳しい感染防止措置が取られた国から帰国した人々の目には、日本の飲食店や電車の車内の様子が「コロナに感染しそうでとても怖い状態」に映る。筆者が海外在住の日本人たちに日本の現状を動画や写真で見せたところ、「怖い」「帰りたくない」「誰かからうつされそう」などと、口ぐちに日本のコロナ禍における「新たな行動様式」への不安感をあらわにした。

「隠れて乗る人」が最大のリスクだ

だが実際には、日本での感染の広がりは欧米と比べ依然として小さく、満員電車で大クラスターが発生したという事例は聞かない。

これまで述べたように、日本と他国とでは、コロナ感染予防に対する考え方がさまざまな点で異なっている。「他人との距離さえ取れば、基本的に安全」と考える海外在住者らにとって、コロナで乗客が激減している平日日中の新幹線などは「世界中のどんな乗り物よりも安全」と映る。おそらくこれはこれで正しい認識だろう。

ただ、もし帰国者が「自主隔離」の期間中に公共交通機関を利用し、コロナの症状を発症したらどうなるだろうか。帰国してから発症するまでの行動経歴を保健当局に問われることは避けられず、そこで具体的に「どこで電車に乗った」と回答すれば、たちまち大きな問題になるだろう。感染が日本到着後だったとしても、帰国者が感染源として疑われる可能性が高い。その点で、帰国者が待機期間中に公共交通機関に乗るのはリスクを伴うことだと認識すべきだろう。

一方で、自前の交通手段がない人は遠方であっても高額なハイヤー利用にならざるをえず、強制力のない現状では、隠れて公共交通を利用する人が出ることは十分考えられる。

帰国者に対して公共交通機関の利用を控えるよう「要請」する現在のやり方は、はたして合理性のある施策なのだろうか。「隠れて乗る人」によってウイルスが拡散するようなことがあっては元も子もない。「要請」ではなくルールに強制力を持たせるか、逆に一定のルールで長距離列車などを利用できる方法を考えるか、コロナ禍の長期化を念頭に入れて、検討の時期に来ているのではないだろうか。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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