東電の「検針票ペーパーレス化」はユーザー不在 12月から紙配布終了、Webサイトは不親切

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一方で専用Webサイトの内容自体は依然として貧弱だ。過去24カ月分の電気の使用量や電気料金を見ることができることや、領収書として使用できること以外に、これといった利点はない。

過去の月の電気の使用量自体は、すでに東電が2012年から開設しているWebサービス「でんき家計簿」でも見ることができる。であるならば、わざわざ、新たな専用サイトを設けずに、でんき家計簿の利用を案内すればいいのではと思って東電の担当者に尋ねたところ、「でんき家計簿は利用が低迷していることから、2021年1月末をもってサービスを廃止する。今年11月末で新規の加入申し込み受け付けを終了する」という。その代わりとなるのが今回の専用サイトだというのだ。

担当者によれば「ID、パスワードの設定が面倒だということも一因となって、でんき家計簿は加入者数が伸び悩んでいた」というが、自由料金の契約者向けのサイトとして東電が開設している「くらしTEPCO」はID、パスワードを用いてログインする方式だ。くらしTEPCOの会員には、電気のみならず暮らしに関するさまざまなサービスの案内もメールを通じて送られてくる。東電は会社を挙げて、くらしTEPCOのプロモーションに力を入れている。

一方、今回の専用Webサイトはメール登録が不要である反面、契約者自身がアクセスしない限り、東電からの新たなサービスの情報を得ることはできない。これでは、顧客のつなぎ止めにもならない。

東電の取り組みはコスト削減が主目的?

今回の専用Webサイトは、紙の検針票と比べて見劣りする点もある。たとえば紙の検針票には2019年同月の使用量との比較(前年同月の使用量や前年同月比増減率)が明記されているが、専用ウェブサイトでは過去の使用量を見つけ出してきて、自分で計算しなければ増減率がわからない。

また、でんき家計簿では前年同月との比較がグラフ化されており、毎日の30分ごとの使用量もわかるようになっているが、今回の専用サイトではそうした機能が削り落とされている。東電の担当者によれば「30分値は閲覧のニーズが乏しかった」というが、使用量の多い時間帯がわかることで、節電意識を醸成する利点もある。スマートメーターの設置によって30分ごとの使用量を見られるようになった。これに対して、専用Webサイトでは、単に月々の電気の使用量や料金を見られるに過ぎない。むしろ時代に逆行しているのではないか。

それにしても、なぜ東電はユーザー本位とはほど遠い、前時代的とも言えるシステムをあえて構築したのか。下表にあるように、関西電力や中部電力、東北電力などは、規制料金、自由料金の契約者を分け隔てなく、1つのWebサイトに加入できるようにしている。関電や中電、東北電、日本瓦斯は専用のアプリを設け、利便性を高めている。

東電も、規制料金のユーザーを、サービスメニューの豊富な、くらしTEPCOのサイトに誘導すればよかったのではないか。東電は「今後の展開についてはさまざまな選択肢がある」というが、現時点では、システムが並存したままだ。規制料金の契約者の中には使用量が少ない家庭も少なくないことから、新たなサービスを提供する対象と見られていないということだろうか。

今回の東電の専用サイトが異質なものとなったことについて、ITを活用した顧客管理システムに詳しい企業関係者は、「ID、パスワードを用いたシステムでは、企業側が新たにセキュリティ体制を整えなければならず、管理コストもかかる。そのことを東電は嫌ったのではないか」と推測する。

原発事故を起こした東電にとって、廃炉や賠償費用の捻出は最重要の経営課題だ。聖域無きコスト削減が必要であることは言うまでもない。年間1億枚を超える紙の検針票配布を取りやめることができれば、環境負荷の低減のみならず、100億円規模の経費削減が実現できると見られる。そのことに理はあるにしても、告知が不十分で、サービスレベルを落とすやり方は粗雑だと言わざるを得ない。

ペーパーレス化を終える前に、ユーザーの声に真摯に耳を傾け、ユーザー目線でサービスの質を再構築する必要があるのではなかろうか。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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