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困っている人をたらい回しにしたくない 寝たきりを経験した長野県知事だから、見えたこと(上)

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パーツではなく、その人全体を診るトータル医療

坂之上:すごくよくわかります。部署で区切られていると、その部署の人だけでは改善できないことがたくさん出てきてしまいますから、トップが理解して、その垣根をとらないといけない。

阿部:はい。それともうひとつ、私の経験そのままですが、信州型総合医を増やそうということも考えました。

坂之上:「信州型総合医」?

阿部:今はひとりでひとつの病気ということはなくて、いろんな病気を複合的に抱えている方がたくさんいらっしゃいます。これから高齢化が進むにつれて、そういう方はどんどん増えていきますよ。

坂之上:高齢化社会ですからね。

阿部:だから県内の病院に協力してもらって、村全体の健康管理をしてもらったり、出張診療や在宅医療もやってもらって、専門分野だけ診てもらうんじゃなくて、トータルな目で、その人の全身を診てもらえるドクターを育成しようと考えています。

坂之上:当時の阿部知事のように、何の病気かわからなくて困っている方が、今もたくさんいる可能性もありますよね。こういうアイデアは、ほかの県にもあるんですか?

阿部:このようなトータル医療の仕組みは長野県が最初です。

なんかね、私の入院中は、移動するときは車いすによっこらしょと乗せてもらっていました。そしたら、元気なときには気づかないこととか、見えないことがいっぱいありましたよ。

坂之上:経験って大きいですね。

阿部:はい。その頃は、すぐ近くを駆け足で人が通るだけで怖かったです。

坂之上:誰かが駆け足で通るだけで怖い?

阿部:手も足も動かなかったわけなので、車いすを倒されでもしたら身動きが取れないですからね。

坂之上:あぁ。

阿部:車いすの方は大変だなっていつも思っていたけど、でも、その気持ちを共有するのはなかなか難しい。だから、何事においてもわかったような気になってはいけないって思いますね。

坂之上:おっしゃる意味よくわかります。

阿部:それから、長野は雪がすごいでしょう。みなさん自分で屋根の雪下ろしをやってるんですけど、お年寄りや障害者の方は、自分ではなかなかできなくて、とにかく大変なんです。だから雪下ろしをする人たちを市町村が雇い、それを県が補助する制度があります。

坂之上:お年寄りにとって雪下ろしって、大変ですものね。

阿部:ところが、ね。この制度の内容をこれまで見直してこなかったから、ぜんぜん柔軟じゃなかった。「家の屋根は雪下ろししてもいいけど、目の前の道路までの道は担当の部署が違うからダメです」、とかね。そんなのおかしいですよね。役所ならではの、こういうところを改めました。

坂之上:しみじみ大事なところだと思います。そういうの。

阿部:こういうことをやっても、まぁ……すごい政策やりましたなんていう評価にはなりませんよね(笑)。でも、先送りになりがちで地味だけど、不便に感じているこういうことって、いっぱいあるじゃないですか。

坂之上:ええ。確かにあまり評価されそうにないですね(笑)。でも、このおかげで確実に助かる方がたくさんいらっしゃる。

阿部:そうそう、こういう小さいことをちゃんとやっていこうと思って。困難に直面した人たちを、しっかり支えていきたいんですよ。

(構成:石川香苗子、撮影: 今井康一)

※ 後編は6月12日(木)に掲載します

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