相談員同士、「来年の今ごろは私らが相談する側になるかもしれへんな」「典型的な官製ワーキングプアやな」と愚痴をこぼし合うことも。モチベーションを維持することは難しく、「相談者が希望する職種ではないとわかっていても、『もうここでええやろ』『なんとかこの会社に放り込まな』と思ってしまう自分もいました」という。
また、業務を請け負った事業者にとっては、相談件数などの実績が評価の対象になる。このため、相談員たちは路上でホームレス状態にある人に声を掛けて窓口に連れてくるよう指示された。ノルマを課させることはなかったが、上司からはたびたび「(仕事が)向いてない人は契約解除だからね」とプレッシャーをかけられたという。
コウヘイさんは「いずれにしても、独り暮らしもできない、結婚もできないような、給料に見合う仕事じゃないんですよ」と憤る。そしてこう続けた。
「『あんたに話を聞いてもらえてよかったわ』と言ってくれた人もいたし、履歴書の書き方や面接の方法を教えたら、自治体の窓口にわざわざ『いい相談員に出会えた』という声を寄せてくれた人もいました。受け取れないと言っているのに、『お礼に』と缶コーヒーを山ほど買ってきてくれた人もいました。やりがいがなかったわけじゃないんです。
生活困窮者自立支援制度は必要な制度だと思います。でも、肝心の相談員の待遇をちゃんとしないと、よいサービスは提供できません」
変わらぬ「生活困窮者自立支援制度」の実態
困窮者を支援するはずの公共サービスの足元で、大勢のワーキングプアが生み出される──。たちの悪い冗談のような構造については、生活困窮者自立支援制度がスタートしたばかりのころ、本連載でも何度か指摘してきた。コウヘイさんの話を聞き、実態はなんら変わっていないのだと思い知った。
労働の現場を取材していると、給与水準や待遇が仕事の重要性や大変さに見合っていないと感じる職種がいくつかある。介護職員や保育士、バス運転手、警備員、清掃員など。ハローワークや困窮支援の相談員もその1つだ。「エッセンシャルワーカー」などという美辞麗句とは裏腹に、雇用政策を担う側や企業が結局はこうした仕事を“下”に見ているということの表れなのではないかと感じる。
実はコウヘイさんは昨年、相談員の仕事を辞めた。今は民間の警備会社で正社員として働いている。人事担当者として採用されたのに、早朝や深夜に工事現場の警備に駆り出されることもあるなど労働環境はよいとはいえないという。もう相談員として働くことはないのだろうか。そう尋ねるとコウヘイさんはこう答えた。
「『もう見切りをつけました』ときっぱりと言えればいいのですが……。将来体が動かなくなって、食い扶持がなくなってどうしようもなくなったら、また戻るかもしれない。今はそんな気持ちです」
現在のコロナ禍。案の定、生活困窮者自立支援の窓口には多くの市民からの相談が殺到した。以前より相談員の処遇改善を訴えてきた大阪弁護士会の調査によると、新規の相談受付件数は前年の同じ時期に比べて5倍に増えた。就労に加え、住居確保給付金に関する相談が激増したためだ。現場は“相談崩壊”の危機に瀕しているという。
カウンターの内側では相談員たちが電話や窓口での対応に追われている。実態を知らないと、たしかに不況知らずの公務職場で働く公務員のようにもみえる。カウンターの外側。順番を待ち続ける人々の背中を見ながら、この中から第2のコウヘイさんが出てくるのだろうかと、ふと思った。
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