「困窮支援相談員」の呆れるほどに悲惨な待遇 「ハローワークの内側」も貧困の巣窟だった

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生活困窮者自立支援制度とは、就労支援のほか住居や子どもの教育など貧困にかかわるあらゆる問題にワンストップで対応することが目的。運用は生活保護と同じく各自治体に任された。当時は生活保護に至る前の「第2のセーフティーネット」として喧伝され、コウヘイさんとしても今度こそ相談員としてまともな待遇で働けると期待したという。

「ちょうどハローワークの相談員と、ある自治体の生活困窮者自立支援の相談員、両方の採用試験に受かったんです。困窮支援のほうの月収が5000円高かったので、そちらを選びました」

相談員としての本当の絶望が始まった

このときは3年間の任期付職員として自治体に採用された。月収は約20万円だったが、初めて自治体職員として採用され、ボーナスも出た。「3年間の任期付なんて、言いかえれば3年後にはクビということですが、そのときは『3年も働けるんだ』とうれしかったです。ボーナスをもらったのも、初めてのことでした」。

しかし、相談員としの本当の絶望はそこから始まった。

貧困状態となった人々と直接向き合う仕事の精神的な負担は重かった。親族と絶縁状態の独り暮らしの高齢者や、離婚したばかりのシングルマザー、重い精神疾患を抱えた人──。窓口では、こうした人々の悩みや不安に長時間耳を傾けることも多かった。

「経済的な事情で子どもに手をかけてしまい、刑務所から出てきたばかりだという女性を担当したこともあります。何時間も相談にのったのに、結局『公務員が税金の無駄遣いしやがって! 死ね!』と罵倒されたこともありあます。『死にたい』と言っていた人が本当に自殺してしまったときは、自分の対応がベストだったのかとずいぶん引きずりました」

職場では残業代は出たものの、残業をすると後日、早退や休日の取得を強いられた。残業代に相当する人件費を抑えることが目的だ。結局月収はきっかり20万円。業務量が減るわけではないので、忙しさだけが増したという。

それでもいつかは正規職員になりたいと、社会福祉主事の資格を取得した。ただ、受講料やスクーリング(面接授業)の交通費や宿泊費などを合わせると費用は20万円を超えた。コウヘイさんは「私が通った学校は、スクーリングの宿舎がなぜか葉山にありました」とこぼす。

カツカツの生活の中で、どうして高級避暑地まで出向かなければならないのか。まるで貧困ビジネスではないか──。ほかにもキャリアコンサルタントやキャリアカウンセラーといった資格も取りたかったが、学校やスクールに搾取されるだけで、見合った待遇アップも望めないと思うと、それ以上自腹を切る気にはなれなかった。

3年後には契約どおり雇い止めに。その後は事業を受託した社会福祉協議会や民間企業の相談員として働いた。いずれも非正規雇用で雇用期間は1年、ボーナスはなし。キャリアを積み、資格を取っても、結局「手取り16万円の世界」から逃れることはできなかった。

一方で事業を担う自治体からは、相談者には安定して働ける仕事を紹介するよう求められる。コウヘイさんによると、夜勤などがある職場の場合、正社員で月収二十数万円という就労先もある。「相談者が自分よりも待遇のよい会社に就職していくこともあります。そんなときは素直によろこぶことはできませんでした」と打ち明ける。

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