政権交代で北欧の福祉政策は変わったか
現財務副大臣が語る福祉・成長モデルの修正
--穏健党内の「新しい穏健」派は、改革への道としての新自由主義を捨てました。
従来の穏健党の政策を吟味してみて、これでは有権者の10%を超える支持は得られないことがよくわかりました。つまり、その政策は国民の10%にしか恩恵をもたらさないということです。わが党は、豊かな人々が過去に抱えていた問題ではなく、普通の人々が現在抱えている問題に対処すべきでした。所得の再配分について、改革の効果は公平だと受け止められるようにしないといけない。国民に受け入れられない改革は、実施することはできませんから。
--スウェーデンモデルの核心は、市場の柔軟性と社会全体をカバーする厚いセーフティネットの組み合わせだと思われます。穏健党はこの考え方を受け入れていますか。
受け入れています。これは、リスク分散の手段として保険に入るのと同じで、公的資金で賄う社会福祉制度によって、すべての国民にリスクを分散する制度です。日本ではセーフティネットは会社が提供していますが、これは私たちの制度よりもリスクが高いと思います。私たちはこの制度を維持しつつも、働くことへの適切なインセンティブを再構築したい。スウェーデンの人口は900万人にすぎないのに、就業可能年齢にもかかわらず100万人を超える人々が職に就いていませんでした。新しい穏健党の政策の核心は、この数値を引き下げることです。この点については成功を収めつつあります。病欠はすでに13%減少し、不就業者の数は昨年度、16万4000人減少しました。
--従来のスウェーデンモデルのどの部分を改革し、どの部分を維持すべきだとお考えですか。
従来のモデルの大部分は維持すべきです。働くことで利益が得られるようにする一方で、公的資金で賄う福祉制度がうまく機能するようにしなければいけませんね。社民党は20年前にこのモデルから離れ、福祉制度に依存して暮らす人が増えました。その結果、制度は安定性を欠くまでに悪化しました。スウェーデン社会の高齢化を考えると、放置できません。
--ではなぜ、穏健党の支持率は大幅に下がっているのですか。
先日、首相が話されたように、改革政策とは厳しいものです。わが党は、4年の任期の初めに厳しい部分に手をつけました。これからは、医療、教育、研究、インフラ整備などにもっと資金をつぎ込むことに焦点を当てます。今後の数年間は、国民には明るい面を見てもらいたい。それには資金が必要です。厳しい面を実行せずに、雇用を増やすことはできません。厳しい面を実行することで、税収を強化し、その他の政策の実現が可能になるのです。
従来の穏健党は、GDPに対する税金の割合をヨーロッパの平均並みにまで下げることを目標としていました。わが穏健党には福祉国家の放棄を唱える者もいましたが、スウェーデンの国民はそのような改革は望んでいない。私たちは、中・低所得層のもっと多くの人々が職に就くように、この層の所得税を減税しようとしています。そして今後は、財政黒字を減税に回すのではなく、支出増大に充てることに集中するつもりです。
Hans Lindblad
1960年生まれ、経済企画庁、財務省、スウェーデン中央銀行などを経て、2003年に現財務相のアンデシュ・ボリーに請われ穏健党に入党。06年より現職
(レポート・インタビュー リチャード・カッツ記者 =週刊東洋経済3月15日号より)
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