高齢者たちが「病院での死」を選ばない複雑背景 コロナ後も自宅での最期を選ぶ患者が増えるか
また、これから入院しようと思っていた人たち、例えば、老衰や認知症などが進んで動けなくなり、従来は入院をしていた人たちも、入院してしまうと家族に会うことが出来なくなるので、最後まで自宅で過ごしたいという人が増えているという。
自宅でもコロナ禍の影響はあるが、やまと診療所の1100人の患者のうち、「コロナが怖いから診療をやめて欲しい」と言った人は1人もおらず、「診療回数を減らしてほしい」と言った人も、10人未満にとどまっている。
10人にも満たないのは、「診療回数を減らすより、先生たちに往診に来てもらったほうが安心という人たちが多い。それは、われわれと信頼関係ができているということもあると思う。ただし、当診療所が看ているのは、重症度が高い患者さんが多く、診療を断れないという要因もある」と安井院長は話す。
在宅での看取りが増えている最大の要因については、病院はコロナ感染防止のために家族の面会を禁止していることから、在宅を選択する人が増えていることにあるという見解で、悠翔会の佐々木理事長とやまと診療所の安井院長の見方は一致しているようだ。
在宅での死はこれからも増えるのか
では、この在宅死大幅増加は、病院が家族の面会を禁止している間だけのことなのか、それともコロナ収束後もこの傾向は続くのか。
悠翔会の佐々木理事長は、「高齢で複数の慢性疾患とともに生活している在宅患者やその家族にとって、新型コロナの感染拡大は、文字通り他人事ではなかったはずだ。今後、どのように医療や介護を選択するべきなのか、当事者意識をもって考える機会になったことは間違いない。具合が悪くなったら、自宅で過ごすのが大変になったら、何となく病院なのかな……と曖昧だった在宅患者の一部は、新型コロナに感染したらどうするか、自分たちで主体的に選択したいと考えるようになった」と口にする。
また、これまでは、「在宅医療ではできないが病院でできること」にフォーカスしがちだった家族や地域の介護専門職も、「病院でなければできないこと、病院ではできないこと」をじっくりと考えてから、病院受診や入院を判断するようになりつつある。
「病院を受診すべきと判断する閾値は確実に上がったと思うし、積極的治療ができない、または積極的治療を希望しないのであれば、入院せずに自宅で最期まで療養をしたい、ということを明確に言葉にする人が増えている。この傾向は、新型コロナが収束したとしても変わらないと思う」と佐々木理事長は続ける。
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