自民再生のカギは「負けっぷり」
塩田潮
民主党政権の人気下落で息を吹き返したのか、泥船から逃げ出したくて浮き足立っているのか、野党転落から半年、自民党の中が騒々しくなってきた。
新グループを立ち上げた「人気トップ」の舛添前厚労相は谷垣総裁交代論に言及した。与謝野元財務相も3月10日発売の「文藝春秋」(4月号)誌上で党執行部刷新や実現しない場合の新党結成を唱えているという。
自民党の現勢力は衆議院が120人弱、参議院が80人弱だが、2007年の参院選前の民主党とほぼ同じだ。衆参の選挙で連敗したものの、ぎりぎり政権奪還可能な水準に踏みとどまっていると見ることもできる。
戦争で負けた65年前、敗戦時に首相だった鈴木貫太郎氏は訪ねてきた吉田茂氏に「負けっぷりよく」と説いたという(吉田茂著『回想十年』)。「負けっぷり」とは、大敗のとき、じたばたせずにじっと挽回の機会を待つといった消極姿勢を指しているのではない。後に首相となる吉田氏は、対米一辺倒と批判を浴びながら、冷戦下で富国軽軍備路線を推進し、「奇跡の復興」「驚異の高成長」の礎を築いた。
昨日、加藤紘一元自民党幹事長をインタビューした。なぜ政権交代に、と尋ねたら、「民主党がいいから、マニフェストがよかったから、ではない。自民党が統治能力を喪失した」と答えた。
政権交代後、民主党の統治能力を疑問視する声が噴出しているが、自民党の統治能力回復も簡単ではない。再生のカギは「負けっぷり」だろう。当面は離党者続出、野党再編、新党結成となるのか、自民党再建の道を歩むのか、そこは不透明だが、政権交代可能な政治情勢、民主党に代わる政治勢力を生み出すには、ここは「吉田流」が一番だ。
結党以来55年の正と負の遺産をゼロベースで見直して、「ニュー自民党」の旗印、目指す政治や社会の青写真、実現のための政策を打ち出し、新しい旗の下で再出発を図る。ひょっとすると、自民党の「奇跡の復興」「驚異の高成長」という展開もあるかもしれない。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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