北朝鮮の軍事パレード「映え」の演出は何のため 異例の夜間実施、カメラワークに中国の影響も

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このように今回のパレードは映像美に徹底してこだわっていたが、前回2018年のパレードとは具体的にどのような違いがあるのか。2018年には2月の建軍節、9月の建国70周年記念と2度もパレードが行われた。2018年のパレードでも戦略軍の刷新された装備やICBM(大陸間弾道ミサイル)などが注目された。

2020年も多くの部隊で装備の刷新があり、新型とみられる戦車やICBM、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の登場がメディアを賑わせた。2018年と比較して2020年のパレードの映像を分析してみよう。

大きく変化したカメラワークと編集、音響演出

2018年のパレードではカメラ視点が固定されており数通りのアングルのみの撮影にとどまった。そして今年のパレードではカメラワークに大幅な技術革新が見られた。例えば移動リフトにカメラを搭載し隊列に合わせ視点を動かし、路面に設置されたカメラは迫る戦車部隊を正面から捉え、さらには撮影ドローンが兵士の頭のすぐ上を飛び迫力と臨場感にあふれた映像を撮影した。時折画面上にドローンが映り込んでいることが確認できた。

編集にも半日以上の時間をかけられていた。映像は広場の様子だけではなく、飛行場の滑走路で国旗に口づけをして戦闘機に搭乗するパイロット、製鉄所や農場から飛行隊を見上げる労働者たち、敬礼をする少年団(北朝鮮の少年少女たちのための政治活動組織)の少年少女たちといった様々な対象を映し出し、北朝鮮人民の一体感とストーリーを演出した。朝鮮中央テレビは2017年ごろからハイビジョンに対応しており、今回のパレードも高画質で世界中に配信された。

音響面でも大きな変化があった。2018年のパレードでは朝鮮人民軍の吹奏楽団の生演奏を収録し、その音声をそのまま利用していた。先日のパレードでは国務委員会演奏団という弦楽器を含めたオーケスラが加わり、指揮者も演奏家も北朝鮮では第一線で活躍する音楽家が抜擢された。音声もオーケストラから直接集音し、編集の段階で音楽が途切れることのないように映像にかぶせ演出の重要な要素として使われた。

また、パレードの終盤にはICBM「火星」シリーズの登場に伴い、オーケストラの指揮を張龍植(チャン・リョンシク)氏へとバトンタッチ。彼は「人民芸術家」という国家へ貢献した芸術家へ送られる称号を得た人物であり、さらに党記念日の数日前には「労力英雄」称号を授与されたばかりだ。「労力英雄」の指揮により、巨大なICBMを乗せたTEL(輸送起立発射機)の行進をより荘厳なものとして演出した。

全体の仕上がりとして、最高の映像と音楽を駆使し、どのシーンを切り取っても映画や楽曲のプロモーション・ビデオのようなクオリティの高い映像となり、2018年のパレード中継のインパクトを大きく飛び越えた。

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