北朝鮮の軍事パレード「映え」の演出は何のため 異例の夜間実施、カメラワークに中国の影響も
軍事パレードの他にも党創建記念日を祝賀してさまざまなイベントが開催された。
2018年の2月に平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック開催に伴い韓国に派遣された三池淵(サムジヨン)管弦楽団をはじめとして、万寿台(マンスデ)芸術団、王在山(ワンジェサン)芸術団など北朝鮮でも伝統と人気を誇る楽団のコンサートが開催された。
その他にも女性同盟や職業総同盟に所属するアマチュア・アーティストたちのコンサートも開催された。また、11万人収容可能なメーデー・スタジアムでは大集団体操と芸術公演(通称・マスゲーム)と呼ばれる大規模ショー『偉大なる向導』が開催された。
コンサート以外でも大勢の市民が手にしたたいまつで文字や絵柄を描くたいまつ行進、プロジェクションマッピング『光の調和-2020』が開催され朝鮮中央テレビで放映された。プロジェクションマッピングは平壌市内の建築物に映像を照射し、まるで壁面が回転したり動物や乗り物が飛び出してきたりするかのような目の錯覚を利用した立体的映像が平壌市民の人気を博した。映像の内容は科学技術の発展と人民生活の向上であり、これは「科学技術強国」を目指す北朝鮮を国内外へアピールする内容だ。
テレビ放映ではプロジェクションマッピングの様子をスマートフォンで撮影する平壌市民の姿も多くみられ、スマートフォンの液晶ライトがまるでペンライトの光のようにも見えた。北朝鮮でのスマートフォンの普及は2019年には600万台を超えたと言われる。観客とスマートフォンを映すことにより、人々の間での電子機器の普及と豊かな生活を強調した。
垣間見える中国の影響
さて、これらの撮影や演出の技術は北朝鮮独自のものだろうか。
軍事パレードにおいて兵士たちの一部の装備品が中国軍と酷似していることはすでに話題にのぼっているが、似ているのは撮影技術も同様だ。路面に設置したカメラやドローン撮影の構図などは中国の軍事パレードと似通った点が多い。プロジェクションマッピングやドローン編隊飛行によるショーも演出方法が中国国内のイベントと同じ技法が使われている。北朝鮮の貿易の約80%は中国が占めており、映像や演出技術の輸入元であることに何ら不思議はない。
音楽や映像、そして美術や服飾、それらの芸術・美術・エンターテインメントが政治的プロパガンダに使われるのは北朝鮮に限ったことではないが、北朝鮮は人々の「思想教養」のための「宣伝」として芸術をことさら重要視している。若き日の金正日総書記は党の宣伝扇動部を指導し、金日成政権の盤石化に貢献した。彼は音楽や映画や美術、そして人々の服装や女性のメイクアップまでを細かく指示し党と国家の方針を人々に浸透させた。
現代の金正恩政権では正恩氏の実妹・金与正(キム・ヨジョン)が宣伝扇動部の第一副部長をつとめたこともあり、現在も先述の音楽家・張龍植氏、元歌手で牡丹峰(モランボン)楽団や三池淵管弦楽団の団長を歴任した玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏らが担当している。張龍植氏はかつて、正恩氏の兄・金正哲氏のエリック・クラプトンのコンサート鑑賞に帯同し、英国でさまざまなエンターテインメントの技法を吸収したと言われている。また、玄松月氏も芸術活動だけではなく金正恩氏の現地指導や政治イベントに頻繁に同行する。2人とも正恩氏の腹心であり芸術面でのブレーンであると言えるだろう。
北朝鮮が政治的宣伝手段として容姿に恵まれた女性を利用することは金日成時代から多く見受けられていたが、ことに近年は牡丹峰楽団や三池淵管弦楽団のように世界の流行を取り入れつつも北朝鮮流に発展させた文化芸術の発信に心血を注いでいる。さらに英語に堪能な女性ユーチューバーのチャンネルを開設し理想的な北朝鮮の暮らしを宣伝したり、少女や一般市民に党の政策を代弁させる動画を発信したりするなど、プロパガンダの形式も大きく進化した。これらは金与正氏の指示によるものと考えられている。
このように、北朝鮮はメディア「映え」の戦略によって国際社会におけるイメージアップを図ろうとしていることが汲み取れる。今回の軍事パレードや関連イベントも「映え」の戦略が反映された結果であり、世界の注目を集めたという点では彼らの戦略どおりの結果と言えるだろう。
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