ワクチンの特許は「独占しないほうがいい」理由 ノーベル経済学賞を受賞した最新分野の考え方

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歴史的にみて、経済学と「革命」は実は切っても切り離せない関係にある。現代の経済学は近代資本主義経済を主に研究対象としている。資本主義経済以前の経済は、簡単に言うと封建制である。絶対王政や江戸幕府などの封建制の下では所有権の絶対性と抽象性が必ずしも確立していなかった。複層的な身分的階級により、土地や生産物は階層的で複雑な所有関係を伴っていた。取引はあったとしても必ずしも自由に行うことはできず、「市場」自体があるのかないのかわからないことも多かった。

その帰結として、えんぴつが100円で買えるといった恵まれた世界とは程遠い社会の中で多くの人々は暮らしていた。

封建制を粉砕した古典派経済学

その封建主義を理念的に粉砕して民主主義を誕生させた立役者が、当時の新しい考えである経済学(古典派経済学)だ。

カギを握ったのは「所有権」の確立で、市民が権利を確立するうえでの1つの大きな理論的背景ともなった。

「封建的な所有関係から解放されれば、私たち(と経済)はもっと豊かになれる」

封建主義に対抗する市民革命家たちの経済法則面における理論的基礎を支えたのが、フランスのフランソワ・ケネー、英国のジョン・ロック、アダム・スミスといった、今でいう古典派経済学の先駆者だった。

所有権を持った市場参加者が自由に取引を行うことができれば、最適な配分が行われ、効用は最大となる。封建主義下ではほとんど理想論であったこのアイデアこそが、古典派経済学の「神の見えざる手」として知られる原理を導き出す。

フランス大革命、アメリカ独立などいくつかの革命を経て、自由市場経済は徐々に確立していき、そのパワーは次第に知られることとなる。

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