創業より難しい2世のわな 後を継いではみたけれど…
基盤を引き継げる企業の2代目は恵まれている、という見方もあるだろう。だが、芸能人などは、親の知名度が最終的に子にプラスかは微妙なところだ。
親がスターで子も成功したという人でパッと思い浮かべられるのは、宇多田ヒカルなど数人ではないだろうか。2世芸能人はビートたけしの娘で歌手の北野井子、北島三郎の娘でこれも歌手の水町レイコなど数多いが、親を超えることは難しい。才能1本で勝負する芸能界では、歌舞伎など家族継承がある世界は別にして、2世は厳しいかもしれない。
ただ、作家では森鴎外の娘の森茉莉や、幸田露伴の娘の幸田文、吉本隆明の娘のよしもとばなな、太宰治の娘の津島佑子など、親の才能を受け継いでいる2世が存在している。
2世の成功率が最も高い業界が「政界」であることは、誰も異論がないだろう。
2世の政治家が有利な理由は、「地盤(地元の後援会など組織)」「看板(親を含めた知名度)」「カバン(選挙資金)」という「3バン」をそっくり引き継げるからだ。ただ、親の力を利用しようという周囲の思惑などに左右されたり、親の影響を勘ぐられたりする。小泉進次郎氏が何か発言するたびに、小泉純一郎氏との“連携”を疑われるあの構図だ。
チャンスには落とし穴
民主党で首相を務めた菅直人氏の長男である菅源太郎氏は、かねてNPO法人の一員として有権者の年齢を18歳に引き下げることを訴えてきた。父親の首相在任中、新聞の投稿欄にこの主張を寄稿したところ、「菅直人がこの政策を仕掛けているのではないか」という臆測が広がった。もちろん、そんな仕掛けはしていない。しかし、周囲はそうは見てくれなかった。
岡山で2度、衆議院選に出て落選した。父の本籍地というだけの土地だった。父親が民主党の大物なので担ぎ上げられたという部分も「確かにあったと思います」と振り返る。
家庭の影響もあった。子どものころから家が選挙事務所。大人たちが侃々諤々で政治談議を戦わせる姿をかっこよく感じ、政治の道に入った。
現在は父親の秘書として働きながら、政治と自分の距離を見つめ直している。
「広い意味で政治は天職だと思う。けれどもそれが政治家という職業かどうか。細かく神経質な性格の自分に向いているか、じっくり考えたい」
2代目であることは、誰にとってもチャンスであることは間違いない。しかし、チャンスには「落とし穴」がたくさんあるという一面もあるのだ。
中国の唐の時代に名君とされた太宗皇帝の言行録に「貞観政要」という本がある。日本にも伝わり、帝王学の書として愛読されてきた。
そのなかでは、国をつくる難しさと、国を守る難しさを比較して論じており、「創業は易く、守成は難し」ということわざの語源にもなった。前出の佐伯さんは言う。
「2世の経営者は普段から貞観政要でもしっかり読み、後を継ぐことの難しさと謙虚に向き合ってほしいものです」
(AERA編集部:野嶋剛)
※AERA 2014年6月2日号
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