名古屋の電子部品商社・伊藤電機で働いている伊藤正樹くん(32歳)は学生時代の後輩だ。伊藤電機は彼の祖父が興した会社で、現在の社長は父親の直樹氏。長男の伊藤くんは跡取り息子である。
伊藤くんは大学卒業後に東京にある携帯電話向けのソフトウェア会社で7年間働いていた。愛知に戻ることに決めたのは2010年の春。上司にステーキで慰留されて1年間の約束で会社に残り、2012年3月の退職直前に東日本大震災に遭った。
震災当日、僕は名古屋で取材をしていて東京に戻れなくなった。宿泊先が確保できない場合は伊藤くんの実家に泊めてもらうつもりだった。運よくホテルの部屋が見つかり、ほっとして近くの居酒屋で飲んだ。周囲の客も気楽に騒いでいた。翌朝、復旧した新幹線で東京に帰ると、どこも沈鬱な空気に包まれていて名古屋との温度差に驚いた。
伊藤くんの話に戻そう。彼とは長い付き合いだが、職場を訪ねるのも愛知県内で会うのも初めてだ。
部員は一人、上司はお父さんだけ
――会社っぽいオフィスだね……。もっと小さな事務所をイメージしていたよ。社員は何人ぐらいいて、伊藤くんは何をしているの?
国内には80名、香港・上海・バンコクの現地法人も含めると95名です。私は本社の海外営業部に所属しています。部員は私一人で、上司はお父さん(笑)。
国内と海外をつなぐ仕事は何でもやる役割です。2012年の正月から春にかけては、バンコク事務所の設立準備にかかりきりでした。2013年はブラジルに長期出張する予定です。跡継ぎとして会社全体のことも勉強しなければならないのですが…。
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