さて、オランダ国内を鉄道で旅していてよく見かけたのが「ドッグノーズ(犬の鼻)」という愛称で親しまれている電車だ。先頭のボンネット形の形状は確かに「犬の鼻」に見え、ユーモラスでさえある。1960年代の初めから2016年まで半世紀にもわたりオランダ国内の普通列車として使用され、各地で見ることができたためオランダを代表する車両として、わが国の鉄道雑誌などでもしばしば紹介された。
1968年以降、黄色の車体に青い斜めの3本ストライプという塗装に変更され、とくに斜めの3本ストライプは他に例を見ないデザインとして注目されていた。したがって、1981年に185系「踊り子」がデビューしたとき、ヨーロッパの鉄道に少しでも通じている識者からは、オランダのデザインを模倣したのではないかと話題になった。
185系は、その後塗装が変更になったものの、近年再びオリジナルの斜め3本ストライプが復活し、このままの姿で引退の時を迎えようとしている。オランダの「犬の鼻電車」のコピーなのか、偶然の一致なのかはあえて詮索しないけれど、ユニークなデザインであったことは間違いない。
ドイツの「白いかもめ」
水戸岡鋭治氏がデザインしたJR九州の885系特急電車は「白いかもめ」「白いソニック」の愛称で長崎本線や日豊本線などを快走し、人気ある車両だ。なかなかにカッコいいデザインは日本離れしたものがあり、ドイツ鉄道(DB)を走る高速列車ICE3、ICE-T、ICE-TDによく似ていると噂されている。
かつて、雑誌のインタビューで水戸岡氏にこの点に関して質問したことがあった。すると、よいデザインは、どんどん取り入れていくことにしているので、ICEのデザインは参考にしたとのこと。芸術家ではないので、オリジナルにはこだわらず、似たものをつくることに問題はないとの見解だった。ICEのデザインを担当したノイマイスター氏と水戸岡氏は親交があるとのことで、承諾を得たうえで似た車両を作ったとも話してくれた。
もちろん何から何まで模倣したわけではなく、車内のアクセントともいうべき墨書のギャラリーなどは、独自のデザインである。
ICEの初代、2代目は、動力車を組み込んだ機関車+客車との編成(ICE1は両端が動力車、ICE2は片側だけが動力車)だったが、ICE3以降は、完全な電車(動力分散式)となり、この点も日本の鉄道では受け入れやすい車両であったと思われる。振り子式のICE-Tは、高速新線(新幹線専用軌道)のみならず、カーブの多い在来線を走る区間が多い。そんな意味でも、ドイツの「白いかもめ」的な走り方をしているとも言えるだろう。
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