個性的な特急列車が走るJR九州の車両の中で787系はとりわけユニークで特急らしい車両だ。博多と西鹿児島(現在の鹿児島中央)を結ぶ九州の看板特急「つばめ」としてデビューしたのは1992年だった。初めは、ブラックボディーにするはずだったけれど、当時の常識ではSL以外に黒い車両を走らせることはタブーだったという。妥協してグレーの車体にしたのだが、それがフランスの高速列車TGVとそっくりだと噂されたものと思われる。
いずれにせよ、1958年にデビューした電車特急「こだま」が進化すると、先頭部のボンネットは、このような形状になるのではと思わせるいかにも特急らしい颯爽としたフォルムなのだ。2020年10月に営業を開始した新しいD&S列車「36ぷらす3」は、時代も変わり、やっと念願のブラックボディにすることができたと水戸岡氏は感慨深げに語っている。
その後「つばめ」は九州新幹線の列車愛称になった。九州の在来線交流電化区間のほとんどすべてを走り回る787系。パリのリヨン駅や北駅などのターミナル駅で見かけた「顔」が九州にすっかり馴染んでいるようにも見える。
ブラックフェイスは北欧由来?
JR九州の通勤型電車817系は、ブラックフェイスのいでたちで実にインパクトある風貌だ。これは、デンマークのIC3形ディーゼルカーとその派生型ともいうべきIR4形電車のデザインに強い影響を受けている。
そもそも、デンマークはユトランド半島といくつもの島からなる国で、首都コペンハーゲンはシェラン島にある。そのため、かつての列車はフェリーの航送により島から島へ、そして半島へと直通運転を行い、そのため、編成を分割してフェリーに積み込む必要があった。それを簡略化するために考案されたのが、大きなゴム幌を連結面とする奇怪なデザインの車両だった。
後に、鉄道橋や海底トンネルの相次ぐ完成によりフェリー航送は、ごく一部を除いて廃止されたが、ユニークなデザインだけが残ったのである。車両の性能もすぐれていたので、同タイプの車両はイスラエルやスペインなどにも導入され、インパクトある風貌はかなり有名になった。
幌の役割は必要ないけれど、ブラックフェイスと側面の白ないしはグレーというユニークな色の組み合わせを主とするデザインを受け継いだのが水戸岡氏で、817系電車は九州各地の通勤電車として大活躍している。車内は、水戸岡氏独自のもので、通勤型車両にしてはグレードが高く、利用者に好評だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら