「中国の成功」が終わりに近づいている理由 歴史学者ファーガソンが予測する「政治と経済」

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アメリカは急成長する中国に追いつかれそうになっていることを理解しました。1980年代の中国の経済規模はアメリカの約10分の1にすぎませんでした。それが、2014年には、米ドルベースのGDPでは半分ほどの規模ですが、購買力平価の基準では中国のGDPはアメリカを抜き世界1位となったのです。

その事実はアメリカに警鐘を鳴らしました。2015年に大統領選挙への出馬を宣言したドナルド・トランプは、中国の知的財産侵害を強く非難し、中国からの輸入品に関税を課すと公約しました。

私は、米中の貿易戦争の原因がトランプにあるとは思っていません。この貿易戦争は中国の不正行為に対するアメリカの報復であるという側面が大きいからです。中国は計り知れないほど世界中の企業や機関、個人の知的財産を侵害しています。それでも、トランプは抑制的でした。2017年の大統領就任後1年間は、貿易戦争を開始しませんでした。驚くべきことです。

人々の予測より、米中の貿易戦争は長引いており、着地点を見いだせずにいます。私はこの戦争に当面、終わりはないと予想しています。両者の対立は貿易の枠を越えてしまっているからです。

今や対立の焦点は技術をめぐる攻防に移りつつあります。ファーウェイ製のハードウェアを使って世界の5Gネットワークを中国が支配することを、アメリカはなんとしても阻止しようとしています。

戦線は貿易から、投資や地政学、イデオロギーの領域へと広がっています。アメリカは技術などの戦略的な経済領域で中国からの投資を制限し、中国の南シナ海の制海権に異議を申し立て、香港政策を非難し、新疆ウイグル自治区での人権弾圧を批判しています。

貿易戦争の火蓋が切られて2年も経ないうちに、米中関係はこれほどまでに緊張を高めました。貿易戦争から技術戦争、そして冷戦へと戦線は拡大しました。「チャイメリカ」は死に至り、第二の冷戦が始まったのです。

勝者がどちらになるのか予測はつきません。アメリカが勝つとは限らないのです。中国経済はかつてのソ連を遥かに凌駕し、アメリカと比較した技術力も、当時のソ連より優れています。

中国の成功は終わりに近づいている

─中国は世界経済を席巻する勢いです。成功は続きますか。

ファーガソン21世紀初頭の経済学者の主要な関心の1つは「中国は成功できるか」ということでした。激しい競争と資本主義制度に基づいた比較的自由な市場と、政治的競争も説明責任も代議政治も真の法の支配もない一党独裁国家の組み合わせが成功できるのか─―。

中国が成功すれば、私が信じている多くのことが間違っていたことになります。私は、啓蒙主義者の識見や、フリードリッヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンなどの広義の自由主義思想の継承者です。そして、世の中のオペレーティングシステムに必要なのは自由市場だけでなく、国家に管理されない市民社会と人と人がつながる生きた社会ネットワークだ─―と考えています。

資本主義は民主主義と一体であり、市場経済があるのと同時に、選挙で選ばれる代議政治と法の支配があります。それらのどれかを切り離せるとは思えません。市場経済のみが存在して、民主主義が存在しなければ、最終的にはその経済は蝕まれるはずです。無責任な官僚制度による利益追求が始まり、腐敗が広がります。

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