「本当に欲しいもの」を知る人が持つすごみ

スティグリッツとファーガソンを支える精神

「やめられない、止まらない。」こうしたねじれた欲望というものの性質を視野に入れ、またさらにその本質を見えなくさせる社会のありようを考えるべく、2016年から回を重ねてきたのが「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」「グローバル経済」というシリーズだ。

そして、その初回に「アダム・スミスは間違っていた」というセンセーショナルな言葉で議論の口火を切ってくれたのが、ジョセフ・スティグリッツだった。

スティグリッツの背景にある情熱の源泉

もちろんノーベル賞受賞の重鎮は、決して唐突な断言で経済学界にスキャンダルを起こそうとしたわけではない。

「経済学の父」が神格化され、結果「市場万能論」というすり替えの解釈が積み重ねられていくことに対する、あえて過激なレトリックによる問題提起、日々厳しい現実の経済問題に取り組む多くの人々へ、「コロンブスの卵」となるヒントを与えようとした言葉だった。

実際、ジョージ・アカロフらとともに「情報経済学」という新分野を切り開くことになったスティグリッツの関心は、貧困層がどうすれば豊かになれるのかという切実な問いに若き日から一貫して向けられているとも言えるだろう。

ともすれば伝統的な経済学が「自由市場」の効能を擁護、時に万能化しやすいのに対して、大いなる疑問を提示するのだ。それが、自身のノーベル賞受賞の功績ともなった「情報の非対称性=不完全性」についての理論だ。「社会的共通資本」の概念を提唱した宇沢弘文を師の一人と自ら語る所以も、こうした発想の延長上にある。

「完全情報」を持つ買い手など、市場にはいない。それはもちろん精巧な理論から導きだされる主張だが、それ以上に巨大な工業都市であるインディアナ州ゲーリーで、貧困、差別、失業などに直面する労働者たちの姿を見聞きして育ったスティグリッツにとって、いびつな市場の姿はある意味皮膚感覚に刷り込まれた「常識」だったと言えるのかもしれない。

そうした、思春期、精神の形成期に実際に見たり聞いたり感じたり、そして考えた経験こそが、彼のベースにある熱情、そして総合的な人間への洞察として結実しているのだ。

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